今日は何の日?

---11月22日、今日は何の日?


「ほら」

学校から帰ってきたスコールが小さな取っ手がついた白い箱を差し出してきたのでバッツは目を丸くした。
箱の形からすると洋菓子店のものであることはすぐにわかったのだが、甘いものにそれほど興味がない彼がどういった風の吹き回しなのだろうかと思ったので思わず「何これ?」とバッツが聞き返すと彼は「見てわからないのか」といわんばかりに眉根を寄せた。

「・・・あんたが前に好きだといっていた店のケーキだ」
「それはわかるんだけどさ、なんでこれをおれに?」

今日はスコールの誕生日でも自分の誕生日でもないし初めて出会った日などの記念日でもない。
確か近所の菓子店は22日がカレンダー上では15日の下に位置しているため、数字の1と5で"イチゴ"が乗っている日であるから"ショートケーキの日"と言って広告を出していたがそれをスコールが知っているとも思えない。
だとすると何か自分に対して後ろめたいことをしたための機嫌取りのケーキなのだろうか?

白い箱とスコールを交互に見ながらあれこれと考えているバッツにスコールのほうも長い付き合いで彼が何を考えているのか察したのか、ふぅとため息を吐いて箱をバッツに押し付けた。

「別にやましいことをしたからとかそういうものではないからな」
「へ?」

バッツが思っていたことを言い当てるとスコールは上着を脱ぎながら何故ケーキを買って帰ってきたのかを話し始めた。

「ジタンがここのケーキを彼女に食べさせたいと言って来て店まで案内させられたんだ。どうやらネットの口コミでかなりの有名店らしいな、ここ」
「え?ジタンがか?」
「ああ。女性は甘いものが好きだからな。それのついでだ」

ジタンはスコールの同級生であり、二人の共通の友人でもある。
バッツも彼から彼女がいると聞いたことがあるので、女性が喜びそうなものに敏感そうなジタンがきっかけであるのなら納得がいく。
店を案内したついでに自分に・・・といったところだろうか?

「なんだ〜そういうことか。おれ、てっきりスコールがおれに何か隠し事をしていて怒られないように買ってきた"エサ"だと思ったよ」
「・・・何故隠し事なんか・・・そもそも俺があんたに隠し事なんてできるわけがない」
「そうだなぁ・・・スコールはポーカーフェイスに見えて意外とわかりやすもんなぁ」
「悪かったな、単純で」
「そうじゃなくて、素直だって意味だよ」

眉間に皺を寄せるスコールにバッツは笑ってそういったが何のフォローにもなっていない。
髪をかき上げ、手のひらで顔を覆うスコールにバッツはへへと笑う。

「へへ、これありがとな。飯食ったらさ、これを食べようか?それまで冷蔵庫に入れておくな〜」

スコールに礼を言うと、バッツは「楽しみだ〜」と歌いながら意気揚々と冷蔵庫へと白い箱を持って行く。
その後姿を目で追いながらスコールは昼間あったジタンとのやりとりを思い出した。

今日、学校でジタンに会うやいなや、スコールは彼に今日は何の日かを問われた。
何故いきなりそんな問いをしてきたのかわけがわからなかったがとりあえずジタンの問に対してスコールが「わからない」と首を横にふると彼は盛大にため息をはいて何の日かをスコールに説明してきた。

--今日は"いい夫婦の日"だぞ?ほとんどお前の嫁のようなバッツに家族サービスしてやれよ?

家族サービスなら夫や妻限定ではなくなるではないか?そもそも自分はバッツと夫婦ではないし、彼に対しては普段から感謝をなるべく言葉にするようにしているし気をつけている・・・つもりだとジタンに言いかけたスコールだったのだが、口はジタンのほうが一枚も二枚も上手であった。機関銃のごとく話す彼に押されてしまい、あれよこれよと言われるままにいつの間にか洋菓子店に連れて行かれ、バッツが以前好きだといっていたケーキを購入していたのだった。
だが、日ごろの感謝をこめてケーキを買ったはいいものの、流石にいい夫婦の日だから土産を買ったとバッツ本人に言うのは恥ずかしいのでジタンにそれを伝えて彼の彼女の土産のついでにしておいてもらうように頼み込んだのだ。・・・「なんでわざわざそんな理由を」と不服そうに言われはしたが。
ジタンが気を利かせたつもりなのはスコールももちろんわかっている。それに感謝の言葉だけではなく、何か形にしたいとは前から思っていたものの、この日は流石にないだろうとまた一つため息を吐く。
ジタンとの一連のやり取りを思い出しながらスコールは普段以上の疲労感ととりあえずバッツにばれなかった安堵感からソファーに深くもたれこんだのだった。


一方、台所ではケーキを冷蔵庫にしまい、ケーキに合う紅茶葉があったかと戸棚を漁っていたバッツに携帯の着信音が鳴った。
着信音の種類からメールだということはわかっていたので特に慌てもせず、ポケットに入れていた携帯電話を取り出し、確認すると差出人はジタンからであった。
スコールの話から、ジタンは彼女のためにケーキを買っていたらしいのでその自慢か何かかと推察してメールを開くと、本文は自慢が長々と綴られてもいないし、可愛い彼女とケーキの写メも派手に動く絵文字も何もなく、ただ一行の文章が綴られていた。

--11月22日、今日は何の日?

ただそれだけの文章にバッツは首を傾げると、とりあえずスコールに今日は何の日か聞いてみるかと紅茶葉の捜索を中断したのだった。


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