最初の涙

「これ・・・皆で作ったんだ!ティナへのプレゼント!」

少年と青年が差し出したのは少女が大好きなモーグリを模したぬいぐるみだった。


少女ティナも目の前には仲間の二人であるオニオンナイトの少年とクラウドが立っている。
オニオンの両手に収まっているのは手縫いのモーグリのぬいぐるみ。フェルトのような布地で作られているらしく、温かみのある、ふっくらとした仕上がりになっている。特徴のある大きな鼻と頭のぽんぽんにコウモリのような羽もきちんとつけられているし、目の代わりには古い木のボタンが丁寧に縫い付けられていた。
行商モーグリを参考にしたのか小さな鞄まで肩にかけているそれはティナでなくても可愛い物を愛する少女の心を掴むだろう。
しかし差し出されたぬいぐるみは素人ではとても一日やそこらで仕上がるものではないものはティナでも十分にわかる代物であった。
苦労して作られたであろうそれを何故自分に贈ってくれるのだろうかと少女は瞳を丸くして困惑した表情を浮かべると、オニオンとクラウドは顔を見合わせた。

「気に入らないかなぁ?」
「・・・不恰好ですまない」

オニオンナイトはひどくがっかりしたらしく頭を小さく垂れ、クラウドは頭を掻きながらティナに謝ってきた。
2人ともモーグリの出来がよくなかったのでティナが受け取ってくれないと思いこんでいるようだった。
生い立ちが生い立ちなだけに人の感情を読み取るのがやや苦手であるティナもさすがにまずいと思い、大きなリボンとそれに結わえられた金色のポニーテールを大きく揺らして頭を振った。

「ううん!そうじゃないの!とってもかわいいモーグリのぬいぐるみだわ。けど、なんで私に皆が?」

ティナが困惑した理由が何故モーグリのぬいぐるみを贈ってくれたのかということであることにようやく察したオニオンとクラウドは再び互いに目を合わせ、そして柔らかな表情を浮かべた。

「実は前から皆で話をしていたんだ」
「いつも荷物整理や洗濯や炊事とかの雑務を率先して手伝ってくれるティナへみんなでプレゼントを贈りたいねってね」

旅暮らしであるため、戦闘に探索、見張り、食料調達や炊事に洗濯、物資の管理などの雑務もろもろは10人全員で行わなければいけない。
ただ、接近戦が不得手であるティナは戦闘では後衛や救護に回ることが殆どで、探索や見張りなども体力面も考慮してなるべく外してもらっている。
そうとなれば、雑務の方はしっかりしなければと思い、積極的に手伝うようにはしているのだがそれでも旅慣れている者や元々そのような作業を得意としている者に比べると手は遅く失敗も多い。
そんな自分は他の仲間の力になっているとは思えないので申し訳なく、とても受け取ることなどできなかった。

「私、ちゃんとお手伝いできていないわ・・・お料理はまだまだ苦手だし、洗濯も洗剤の量を間違えてばかり。荷物整理もこの前ティーダとバッツの荷物を間違えて渡しちゃったわ・・・」

髪を揺らし、小さくしょげるティナにオニオンは慌てて首を振った。

「し、失敗は誰にでもあるよ!」

モーグリのぬいぐるみを抱えながら何とか励まさそうと何かいい言葉はないかとオニオンは考えあぐねたが、そこか年の功なのか普段は無口なクラウドが珍しくティナを励まし始めた。

「ティナは確かに他の仲間に比べると失敗は多いほうかもしれない。けど、最初に比べて少なくなった。」
「そ、そうそう!」

クラウドのフォローにオニオンも大きく頷き賛同するがそれでも余程気にしているのだろうかティナの表情は冴えない。

「でも、でも・・・」

まだ表情が薄暗い少女におろおろとするオニオン。
するとクラウドがオニオンの腕を取り、モーグリのぬいぐるみを差し出してきた。

モーグリのぬいぐるみとティナが向い合せになる。

「大事なのは一生懸命手伝おうとする気持ちだ。だから皆、ティナには感謝しているんだ。その気持ちを形にしたものがこれだ」

クラウドはモーグリに視線を移し、そしてティナへと視線を移した。

「皆の気持ちを受け取れないか?」
「・・・」

オニオンが一歩踏み出し、ティナの目の前すぐにモーグリのぬいぐるみを差し出す。
クラウド視線で受け取ってくれとティナを促すと、ティナはおずおずと両手でモーグリのぬいぐるみを受け取った。

想像していたよりもふかふかとしている。綿を沢山詰めてくれているのだろう。
本物よりもやや小ぶりに作られた小さなそれを胸に抱きかかえ、頭を顔に埋めると何ともいえない柔らかな感触とやさしい香りがした。

「ふかふか・・・」

思わず呟いたティナにオニオンは大きく笑みを浮かべ、クラウドはよしとばかりに頷いた。

「あのね!ぬいぐるみの型紙と顔の輪郭はセシルが作ってくれたんだ!耳はウォーリア!胴体がジタンで両手がティーダに両足がスコール、羽はフリオニールがうまいこと仕上げてくれたんだ!頭のポンポンは僕で丸い鼻はクラウド!顔の表情とモーグリの鞄はバッツが縫ってくれたんだよ!鞄にはポプリが収納できるようになってるんだって!!」

ティナが受け取ってくれたことが嬉しいのか、オニオンがぬいぐるみができるまでをやや早口で頬を紅潮させて説明していく。

ティナを除いた9人の仲間で体のパーツをそれぞれ担当したらしいぬいぐるみは裁縫が得意な者は縫い目が細かく、見えにくいようにしている上に立体的に仕上がっている。それとは逆に裁縫が苦手な者が担当した箇所はよく見れば少し歪に仕上がっていたり縫い目もバラバラである。

ティナはぬいぐるみを抱きしめさらに顔をうずめた。
ちょっと硬いがよく洗濯された布で作られたそれからは洗剤のさわやかな香りとお日様のような匂い、そしてさきほどオニオンが説明してくれたポプリの匂いがほのかに香る。

「(旅先で材料を集めるだけでもきっと大変だったに違いないわ・・・)」

糸も布切れも中に詰まっている綿も目に使っているボタンも、何もかも一から集めてきてくれて作り出してくれたぬいぐるみ。
手作り感にあふれたそれは売り物のぬいぐるみのように精巧ではないが仲間たちが皆限られた時間内で材料を集め、ぬいぐるみ製作に時間を割いてくれたという気持ちとその結晶は何物にも変えられない価値のある宝物であるとティナには感じた。
この小さなモーグリに9人の仲間達の想いが詰まっている。
そう思うといつの間にか目じりに涙が溜まっていた。
それに気づいたオニオンがあわててハンカチを取り出して差し出そうとしてきたが、ティナがゆっくりと首を横に振って自分の指で涙をぬぐった。

「・・・ありがとう」

涙を拭い、小さな口で綺麗な孤を描くティナに二人は柔らかな表情を浮かべる。


幼い少女の頃から戦いの中でしか生きてこなかった。
自分の中にある凶暴で強大な力を使い、沢山の命を一瞬で奪い去ってきた。
悲しみ、恐怖、負の感情で流した涙はどれほどだったのか覚えていない。

しかし、うれし涙を流したのは今この時が恐らく初めてだ。

「(嬉しくても、涙を流すのね・・・)」

瞳から零れ落ちそうな涙を指でぬぐうと、ティナは二人にもう一度、そして他の仲間にも礼を言おうと決めたのだった。


♪Happy birthday Tina♪



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2013.10.18
お誕生日おめでとうティナ♪昔からもこれからもずーっと大好きです!!


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