おとなと子供 -7-

アルティミシアの方は小首を傾げ、ケフカは頬に手を当ててスコールではなく後ろにいるバッツを見据えていた。
スコールがガンブレードを構えているにも関わらず、二人は攻撃をしかけることよりも、興味の対象が少年になってしまったバッツであるため攻撃を仕掛けてくる気配がない。
バッツを見つめながら、アルティミシアはぽつりと小さな声で呟いた。

「・・・頭の中身どおりの外見になった、ということでしょうか?」
「聞こえてるぞ!!失礼だな!!」

敵方であるアルティミシアはバッツのことを「何も考えていない」と評していたことをスコールは思い出す。
仲間内では旅の知識が深く、頼りになる男ではあるが、表面上しか知らない者たちからすればそう思われても仕方がないだろうと納得する。
尤も本人からすれば失礼極まりない言葉ではあるが。

「あら、違いますか?」
「そんなわけないだろ!?いくらなんでもひどくないか?」

「なぁ」、とばかりにスコールに同意を求めてくる。
通常なら敵方と対峙している時はもっと緊張感が漂うはずなのに、二人の掛け合いはどこか漫才をみているような光景だった。
そんな中、普段は何かと落ち着きのないケフカが先程から黙ってバッツを見つめている。

ぎょろりとしている目を細め何かを探るかのように視線をバッツの身体全体に注いでおり、それ以外は何も見ていないようだった。
それに気づいたバッツは「なんだよ?」と怪訝そうな顔をしてケフカを見つめ返す。
アルティミシアも大人しいケフカを不審に思ったのか「どうかしたのですか?」と声を掛けている。

3人共がやけに大人しいケフカに怪訝そうな顔で見ていると、やがてケフカは口元をにんまりとさせ、両の手を口元に当ててくすくすと笑いだした。

「ふっ、ふふっ」

とても不快な笑い声と顔だった。
やけににやついた顔でバッツを見ながら笑うケフカにスコールは片眉を上げて、ケフカに笑みの訳を問いだした。

「・・・何がおかしい」

低い声で聞くスコールにケフカは手と首を振りながら耐えられないとばかりに答える。

「だーってこいつがとーってもおばかさんだからだよぉ」

こいつとはバッツのことなのだろう。馬鹿と言っているからにはバッツに何かあることに気付いたのだろうか。
気狂いのように見えてケフカも神々に召喚された一戦士である。今いる3人やコスモスの仲間達ですら気が付かないことに気付いたとしてもおかしくはない。
はったりの可能性も捨て切れないが。

「・・・どういうことだよ?」

バッツがスコールの背後から問うとケフカはくすくすと笑いながら話を続ける。

「自分自身望んでその姿になったのにちーっともきづいてないからだよ!」
「何を言ってるんだ?先日あんたらと戦った時に受けた技によっておれは・・・・」
「ぼくちんとアルティミシアちゃんが放った魔法や技はただのきっかけに過ぎない。あんたがその姿に戻りたい思いがぼくちんたちの技や魔法に作用してそうなったんだ!」

バッツを見下すかのように指を指して言い放つ。
バッツの身体が少年になってしまったのは、バッツ自身に原因があるとは思っていなかったスコールはバッツの方へ視線を向けると彼はぶんぶんと首を振って否定を表している。
確かに日々戦いの中でわざわざ不利な状態に戻りたいと思うことはないと思うが。ただ、時を操る魔女の能力と様々な魔法を操るケフカの魔法がバッツの身体に作用してしまい、それが留まっているとしたら、それをバッツが留めているがためにいつまで経っても戻る気配がないのだとしたら・・・。
困惑した表情のバッツとスコールにケフカは人差し指を振りながら、追い打ちをかける。

「おやあ、気づいていないのかい?だったらなんで原因がわからないんだろうねぇ?元にもどる気配がないんだろうねぇ?・・・こいつ自身が今の姿にいたいと、自分の魔力で殻をつくっちまったからだよ!」

二人の心情を見透かしたかのようなケフカの説明にアルティミシアもまた、目を細めてバッツの身体を下から上へ、上から下へと眺めていくと、やがてふう、と溜息を吐いた。

「・・・確かに、ケフカの言うとおり。坊やの体は微弱ではありますが、魔力に覆われています。その魔力の膜の内側に僅かながら私とケフカのものも感じ取れますから坊や自身が私達二人の魔法を体に留めているみたいですね。」

自分が気が付かなかったことをケフカが簡単に気づいたことが複雑なのだろう。アルティミシアは腕を組んで首を振りながら顔を俯けた。
スコールも二人と同じようにバッツの身体から魔力を探ろうとしたが、何も感じ取ることができなかった。

「何も感じないぞ!?」
「言われてみてようやくわかる程度ですからね。よほど魔力に長けており、探ろうと思って探らないとわからないほどのものですから。坊や自身が気が付かなかったのは、自身の魔力に覆われていたために、自身の一部と思いこんだ・・・といったところでしょうか。」

アルティミシアの説明にスコールは片手で顔を覆った。
仲間内で魔法に長けているティナやオニオン、セシルあたりが何故気が付かなかったのかと思ったが、自分は言われても探ることができなかったので探るのは余程困難なのだろう。
バッツ自身の魔力で原因であるアルティミシアとケフカの魔法を留めるために覆い隠してしまっているのなら尚更だ。

「スコール、おれ、そんなつもりは・・・っ!!」
「っ!なんとかならないのか!?」
「わ、わからない!!自分でも気がつかないうちにそうしちまってたみたいだから何がなんだか・・っ!!」

本当はすぐにでも魔力を解除して元の姿に戻りたいのだろうが、無意識にしてしまったことなので解除方法がわからないとバッツは珍しく動揺を隠せないようだった。
スコールも何とかしてやりたいのだが、アルティミシアやケフカが探り当てた魔力がまったく探れないのでどうすることもできなかった。

「・・・この坊やが小さくなったことは別として、人の領域を土足で侵入されては黙って帰すわけにはいきません」
「そうでした。ネズミが小さくなったからびっくりしたけど、わざわざやってきたおもちゃをほおっておくわけにはいきませんよねぇ・・・」

混乱する二人をよそにアルティミシアは優雅に、ケフカは猫なで声でそう言い放つと、ふわりと浮き上がり、呪文を詠唱し始めた。
そうだった、ここは敵陣だったとスコールは我に返り、取りあえずバッツを元に戻すことは後回しにして目の前の敵二人に対峙した。

相手は二人。二人とも魔法攻撃を得意としているが故にある程度距離を取って攻撃を仕掛けてくる。
アルティミシアは特に遠距離での戦いを得意としているので接近に持ち込めばこちらに利があるだろう。ただ、間合いを維持して戦ってくるので簡単に懐に飛び込ませてくれなさそうではあるが。
次にケフカがどう出てくるか。性格が出ているのかいきなり不規則な技を気まぐれで繰り出してくる。攻撃の手が読みづらいので先読みでの戦いは困難。
極めつけに場所自体が上下に広くても左右の場所が狭く足場も脆いところがある。逃げ回るのは困難な上に、近距離での攻撃が得意なスコールがバッツのことを気にかけて何かをけしかけるのはかなり難しい。

「(バッツをかばったまま戦うのは・・・無理だ)」

バッツの方は武器での攻撃ができない上に、脚力や体力の低下から逃げ回っての攻撃は戦いが長引けば長引くほど彼の負担が比例して大きくなる。
魔法での攻撃を行うことができるものの、元の姿に比べると威力がやや落ちている。
そう考えると参戦させるのは得策ではない。

「(バッツ)」

アルティミシアとケフカに聞こえないようにバッツに声を掛ける。

「(なんだ?)」
「(ここは俺でくい止める。アンタは断片を通って拠点に戻り、応援を呼んでくれ)」
「(な、なに言ってるんだよ!?接近戦が得意なおまえがあの二人相手でしかもこんな場所だとやばいだろ!?)」
「(そうだとしても、今のアンタと共闘はかなり無理がある上に時間が経てば経つ程こちらが不利になってしまう)」
「(お前ひとりに相手をさせるなんて、そんなことできるわけないだろ?だったら二人で逃げ・・・)」
「(アンタもわかっているだろう?二人揃って逃げれば、あいつらをこちらの陣地に連れてきてしまうことになる。それに、アンタを守りながら逃げるのは多彩な遠隔攻撃をもつあいつらだと難しいだろう。)」
「(・・・)」

バッツもわかっているのだろう。足手まといで共闘ができず、自分達二人そろって逃げることが困難であるということを。下唇を噛み、悔しそうに顔を歪めている。スコールも、もし自分がバッツと同じ立場ならそう思っていただろうが、敵は待ってはくれない。

「バッツ」

諭すかのようにもう一度名を呼ぶと、バッツはやや間を置いた後にやがて小さく頷いた。

「(・・・わかった。そうしよう)」
「(ああ。俺はそう簡単にやられやしないさ。アンタが行って戻ってくるまでの間くらいなら、楽勝だ)」
「(おう)」

安心させるために「楽勝」とスコールは言ってはいるものの、苦戦は目に見えている。自分がいかに早く戻ってくるかにかかっているだろうということをバッツは悟った。
互いに目を合わせて小さく頷くと、ケフカが火球を飛ばしてきた。

「なーにこそこそやってるんだよ!!」

不規則な動きをする火球が襲い掛かってくるが、スコールがフェイテッドサークルを繰り出し、防御するとともに爆発を起こし、建物の一部が破壊され、粉塵が舞った。

「行け!バッツ!」
「っ!ああっ!!」

砂塵が舞っているため目くらましになっている今が好機とばかりにスコールに背を押されたバッツが螺旋階段を駆け上がり始めた。
それに気が付いたケフカがバッツの背に向けて魔法を放とうと手を翳す。

「逃がしゃしないよーん!!」

ケフカが次の魔法を放つべく、呪文を詠唱し始めようとしたところで、スコールが地を蹴り、一足飛びでケフカの懐へと飛び込み、切りかかる。
それを呪文の詠唱を中断して紙一重で交わしたケフカは軽やかに回転をしながら間合いを開ける。

「おやー・・・やりますねぇ」
「ではこちらから」

ケフカに代わりアルティミシアがスコールへと技を放つ。
斜め上から矢のようなものが現れ、襲い掛かる。それ剣で受け流しつつ避けると、呪文の詠唱を終えたケフカがメテオを放ってくる。
交互に詠唱をすることで隙を与えず、絶え間なく攻撃ができるようにしている。仲間意識はほぼ皆無ではあるものの、共闘した方が得策だと踏んでいるのだろう。
相手をいたぶることができることが楽しいのかスコールが何もできずに攻撃を防御することで精一杯な姿をみてケフカはケタケタと笑い声を上げている。
間合いを詰め、なんとか得意の接近戦へと持ち込みたいスコールは、剣を構え直し、上空へと飛び上がると、光を身に纏って一直線に飛び込んだ。ラフディバイドだ。
そこを二人は左右に飛んで避け、揃って魔法を放った。



「(おっぱじめやがったか!!)」

螺旋階段を駆け上がりながら下を見ると、派手な爆発音とともに粉砕した壁や木片、歯車などの金属片が飛び散っている。
時折人影のようなものが見えるがそれがスコールなのか敵二人なのか判別がつかない。
ただ、放たれる技のほとんどがスコールのものではないことからどうやら苦戦を強いられているようだった。

「くそっ!!早く戻ってこないと!!」

川に飛び込んだ時にブーツを脱いでしまったため、素足のまま走っているので思うように走ることができない。
足の裏が時折ちくりと痛む。小石か何かを踏んでしまっているのだろう。それでも下で戦っているスコールのことを思うと止まることなどしたくはなかった。

ようやく上へと上り詰めると、息つく暇もなく断片に向かって飛び込む。
飛び込んだ瞬間、顔に水がぶつかる。飲み込み、咽返らないように口を結び、深い水底から地上へと泳いでいくかのように手を掻いて、足をばたつかせると勢いよく水面へ飛び出した。
荒い息を吐き、少し泳いでから足をつけると水流で削れて丸くなった石の感触がした。どうやら無事に移動できたようだと安堵すると、そのまま河原へと駆け出す。
流れる水に足を取られ、転びそうになりながらも河原へと上がり、脱ぎ捨ててたブーツに急いで足を入れた。
濡れた足でのブーツの感触は気持ち悪く、水に濡れて冷えた体に震えながらブーツの紐をきつく結ぼうとしたが指を思うとおりに動かすことができずに上手く結べず苛立ちが募る。
こうしているうちにもスコールが、自分を逃がそうとするために一人で二人を相手に戦っているというのに。

「(おれが元の体なら、スコールと共闘することができたはずなのに!!)」

自分が元の体で、普段通りに戦うことができたら、残って彼と共に戦えたはずなのに。
二人とも倒すことができなくても、追い返すか、逃げるかはできていたかもしれないと思うと悔しくて仕方がなかった。
ケフカが言っていた通り、自分で自分の身体を少年のままにしているとしたら、何故元に戻すことができないのだろうか。

「(くそっ!!なんで、このままなんだよ!?元に戻ったらあいつと一緒に・・・!!)」

応援の呼びに行っている間にスコールが倒れたとしたら、何もかも自分のせいだ。
仲間たちを困らせ、スコールを危険な目に合わせてしまうことになってしまった。それなのに自分は久しぶりに外に出られたことに喜び、偶然とはいえ敵の陣地に繋がっている断片へと足を踏み入れてしまった。自分の状況を理解して大人しくしていたらこんなことにはならなかった。

ブーツの紐を結び終わり、起き上がって走り出そうとしたところで、躓き、手を突いて転ぶのを免れる。
だが、そのままの状態で体を起こすことができなかった。悔しさと、自分に対する怒りで体が動かない。

「(ちくしょう、ちくしょうっ!!)」

握り拳を作り、地に叩きつけるとかすり傷ができて血が流れたが構わず叩きつけた。

「戻れよっ、戻ってくれよ!!おれの体・・・っ!!戻れよっっ!!」

大声で叫び、両手の拳で地を叩きつけた時だった、突然ガラスが割れたかのような幻が一瞬見えたかと思った瞬間、塞き止められていたものが一気に流れ込む感覚が全身に駆け巡った。





「は、はあっ・・・っ!!」
「なんとも哀れな・・・一人で勝てもしない戦いになのに、仲間を逃がすために挑むとは」

壁に体を預けて座り込み、大きく息を吐くスコールにアルティミシアは冷徹に言い放った。
衣服がところどころ裂け、血で滲んでいた。額からも血が流れており、片目は流れた血が目に入ってしまったためか開くことができない上にガンブレードを持つ手が震えている。

「ねぇ〜さっさとトドメをさしちゃわないの〜?ものすごく苦しそうだよ〜?それとももう少しいたぶって遊んじゃう?」

アルティミシアの背後からケフカがひょっこりと顔を覗かせている。
満身創痍で立ち上がるのも難しいスコールをにやにやと見下ろしながらそういうとアルティミシアは腕を組み、暫く考えるかのような素振りを見せた後、口角をゆっくりと上げた。

「私は苦しそうに戦い、そして無様な姿を晒している姿を見れただけで十分・・・いいえ、断末魔の叫び声を聞いて満足できそうですね」
「そ、アルティミシアちゃんがそういうなら。どうやらこのガキに因縁がありそうですし?一番おいしいところはゆずりましょうかね?」
「あら、珍しいことを・・・」

一歩後ろに下がるケフカにアルティミシアは珍しく笑みを浮かべると、スコールの目の前に手を掲げる。
掌に魔力が集中する。

「(くそ・・・どうやらここまでか・・・)」

援軍は間に合わなかったが、せめてバッツだけでも逃がすことができた。少年の姿のままであることが気になるが、原因がわかったのなら、あとは仲間達に任せておけばなんとかなるだろう。

「(すまないな・・・)」

仲間達と、バッツに心の中で詫び、瞳を閉じるとと、アルティミシアの手から光の弾丸が放たれる。
瞼裏から感じる閃光にスコールは自分の最期を悟ったその時だった。

「ちょーっとまったぁぁっっ!!」

聞きなれた声が頭上から聞こえてきたと同時に赤い閃光がスコールに向かって放たれた光とぶつかり、相殺された。

「何者!?」

アルティミシアが割って入った者を探ると、スコールの目の前に一人に青年が立っている。

「遅くなってごめんっ!!」

スコールはそう言われるやいなや、自分の頭上から冷たい液体が振りかけられた。
傷が癒え、疲労していた体が軽くなる。ポーションを振りかけられたのだとすぐにわかった。
スコールは閉じていた瞳を開き、座ったままの状態で見上げると、少年から青年の姿になったバッツが立っていたのだった。


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