おとなと子供 -1-

スコール視点の若返ったバッツネタ。
17歳×(見た目)14歳なネタなので苦手な方はご注意ください。

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バッツが小さくなってしまった。
正確には"若返ってしまった"と言った方が分かりやすいだろう。

たまたま単独行動を取ってガレキの塔を探索していた時に道化と魔女に出くわしてしまいそのまま2対1で戦闘を開始したらしい。
闘っているうちに道化が放った魔法がビーカーの中に入っていた薬品をぶちまけ、丁度その時にタイミングがいいのか悪いのかに魔女がバーストしてしまい"時間圧縮"を行った時に突然閃光が走り、気がつけば道化も魔女も忽然と姿を消しており、若返っていたとのことだった。

体が小さくなってしまい、思うように動けなかったであろうが何とか帰還できたのは不幸中の幸いだったかもしれない。出発時には青年だったはずのバッツが少年になってしまい、服をだぼつかせながら戻ってきた時は自分を含め、周りの仲間達全員が驚いた。
ただ、本人は帰還中に自分の中で整理がついていたのか至って冷静に自分が少年になってしまうまでの事の顛末と現状を仲間に説明した。

「多分だけど、13・・・いや、14歳くらいになったんだと思う。魔法は普通に使えるけど、剣は今使っているものだと重くて持てないし、"ものまね"も手足が短くなっちまってリーチが短くなったり筋力が弱くなってるから種類によっては多分無理だ。」

身長は仲間内のティナよりやや小さく、声も少年特有の高いものに変わってしまっている。顔も本来と比べてほんの少し丸くて小さい。そのせいか瞳はいつもよりも大きく見えて余計に幼く見えた。
意外に骨太な腕も今は細くて頼りなげで本人が言わなくてもとても武器を振るって戦えそうにはなかった。
自己分析をした上で自らリーダー格のウォーリアにとても戦えそうにないことを報告したバッツはオニオンとティナと同様、単独行動は避けるように命じられた。

そして今、俺はバッツの護衛役として2人で野営地に残っている。
他の仲間達はバッツを元に戻すために何人かでチームを組んで道化と魔女の捜索とガレキの塔内にあった薬品の調査に向かっている。
バッツ本人ももちろん行きたがっていたのだが、急激な体の変化による体力の消耗とストレスを避けるために残って休むように命じられた。
ただ、一人で残しておくわけにもいかないため、誰か一人を残すことになり、ジタンをはじめとする他の仲間達に「お前が残れ。」と言われてしまった。

最初は二人で他愛もない話をしたり、空を眺めたりしていたのだが、子供の身体になってしまったため落ち着かないのかバッツは時折ぼうっとどこか遠くを見ている。
コーヒーを淹れながら座っているバッツの様子を横目で観察していると、彼は見られていることに気が付かないのか、本日何度目かのため息を吐き、縮こませるかのように体を丸めて座っていた。
いつもどこか余裕を忘れていない彼らしからぬ様子からどうやら本来の姿ではないことがかなりのストレスになっているのだろうと嫌でも解った。
こういう時、話すのが上手いジタンやセシルなら彼をさり気なく励ましていたかもしれない。ティーダなら得意のブリッツなどで彼の気を紛らわせることができていたかもしれない。他の仲間たちも自分たちなりの言葉や行動で彼を元気づけようとしただろう。
そう思うと自分の不器用さには嫌気が差してくる。頭も痛い。気の利いた言葉も行動もできない自分自身に彼ではなくこちらがため息を吐きそうになりながら淹れたコーヒーにミルクを少し多めに割る。ついでに砂糖をいつもより少し多めに入れてカフェオレを作ると、ぼんやりとしている彼にマグカップを差し出した。

「ほら。冷えるだろう。」

差し出されたマグカップに気付いたバッツは驚きながらもすぐに笑顔を作りそれを受け取ってくれた。いつもなら片手でも持つカップを両手に持ち、中を覗き込んで小さな歓声を上げた。

「お、ミルクたっぷりだな。コーヒーもいいけどミルクが多いカフェオレも大好きだ。ありがとな。」

礼を言うとバッツは息を吹きかけて冷ましながらゆっくりとカフェオレを飲みはじめる。嬉しそうに飲んではいるがやはりどこか笑みがぎこちない。
自分の心内を隠そうとしているバッツにどうしたものかと考えながら、彼の隣に深く座りこんだ。
片手に持ったカップを口につけて傾ける。熱いカフェオレが流れ込み、一口分含んで飲み込むとコーヒーの苦みとミルクのまろやかさ、砂糖の甘みが口内に広がった。

カフェオレは甘いが心の中がほろ苦い。

他の仲間たちではなく今ここにいる自分にできること。
戦う能力以外自分は何か得手があるだろうかと考えれば考えるほど自分の頼りなさを痛感してしまう。もしもの話だがバッツではなく、自分が子供になってしまっていたらきっと彼は彼なりの方法で励まし、気を紛らわせてくれていただろう。そう思うとますます落ち込みそうになった。

「あっちっ!!」

突然バッツが傾けていたマグから口元を離して叫ぶ。
どうやら淹れたカフェオレが思いの外熱かったのだろう。小さな舌を出して顔を顰めていた。
考えごとの最中だったが大きな声に現実に引き戻されてしまった。
ふうふうと息を吹きかけながらカフェオレを冷ますバッツに火傷などしていないか気になり声をかけた。

「大丈夫か?」
「ああ。もう冷まさなくても大丈夫だと思って飲もうとしたのがまずかったみたいだ。舌まで子供になっちまったのかな?」

失敗したと苦笑するバッツは再び両手に持ったカフェオレに息を吹きかけ始める。
息を吹きかける動作をするバッツの横顔は動作に集中しているようだったが視線はカップに注がれていなかった。普段ならすることは無い失敗に何かを思っているのだろうか。

「・・・大丈夫か?」

散々悩んだ結果、この一言しか出てこなかった。しかも先程言ったばかりの言葉だった。
こう聞けば、バッツのことだ。「心配ない。」、「大丈夫だ。」、「平気だ。」このあたりの言葉が返ってくると安易に予想ができるのに我ながら情けないと思いながら発してしまった言葉を今更なかったことにできずに彼の返答を待った。

「平気だよ。全然問題なし。大丈夫。」

やはり笑顔で返されてしまった。普段の彼ならもっと上手く隠していたであろう笑顔にどうしたものかと考える。
戦士として力にならない上に仲間たちに迷惑を掛けているからこれ以上心配を掛けさせるわけにはいかないと努めているのかもしれないのだろうが、自分の前くらい少しは吐露してはくれないだろうか。
手に持っていたカフェオレをまた一口含む。少し冷めはじめたカフェオレは出来上がった時と比べて砂糖の甘みがより感じられるが心の苦みは増すばかりだった。

「・・・なぁ。」

突然声を掛けられて声の方を向くと、声の主は手に持ったカフェオレを見つめたまま何も答えない。
声を掛けてきたにも関わらずどうしたのだろうと「どうした?」と先を促すと、バッツはマグカップを傍に置き、一呼吸おいて話した。

「このまま戻れなかったらどうしようか。」

まるで冗談を言うかのように呟いていたが視線はこちらに向けてこなかった。思った通り不安なのだろう。バッツは子供っぽい見かけや言動に反してさりげなく仲間たちを気遣うのが上手い。どんなことがあっても不安を消し去るかのように笑い、仲間たちを励ます彼が不安を煽るようなことを言うことはまずない。
普段の彼らしくない言葉は今彼の心の中にある不安の現れ。

それを少しでも軽くしたい。そう思うと考える前にマグカップを置いて彼に手を伸ばしていた。

小さくなった身体を引き寄せて、腕の中に閉じ込めるとふわりと額に口付ける。

恋人同士のするキスとはまた違う、慈しむかのような柔らかく、軽い口づけにバッツは腕の中で呆気にとられた顔をしてきた。

「・・・今はそんなことを考えても仕方がない。みんなあんたを戻すために頑張ってる。あんたも戻れないことよりも戻ることを考えろ。」

もう少し優しく言えればよかったのかもしれないが、口下手な自分には精一杯だった。
口付けられた額を押さえてぽかんとした表情をしていたバッツだったが、やがて顔を綻ばせてそのまま身を寄せてきた。小さくなった分、体が軽く、華奢になってしまったためいつもの重みとは違うもののふわふわした癖のある髪の柔らかさやほのかに香る彼の香りはいつものバッツと変わりはなかった。

「・・・へへ、そうだな。お前の言うとおりだよな。」

腕の中で身を捩り、背に手を回してくると、そのまま下から見つめてこられた。
先ほどのぎこちない笑顔とは違う。大きな目を細め、口元をゆるめている。いつもの彼の笑顔だった。

「ありがとうな。」
「いや。」

抱き着いてきている彼の背に自分の腕を回して一層強く閉じ込めた。少年になってしまったためか、バッツの体温がいつもより高く感じる。その体温の心地の良さを感じながら安心させるかのように彼の髪を梳くと、大人しく抱きしめられながら彼は下から声を掛けてきた。

「あのさ。」
「どうした?」
「・・・ここにはしてくれないのか?」

そういうとバッツは人差し指を孤を描いた唇に指差した。
・・・まさかここで強請られてるとは思わなかった。

体格差でどうしても俺を見上げる形になってしまうため上目遣いで見つめてくる。いつもなら自分とほとんど変わらない視線の高さが違っただけで勝手がわからなくなりたじろいてしまった。それを察したのか、彼は一度声に出して笑うと瞳を閉じてきた。口づけるのは決定しているということなのか。

他の仲間がいないとわかっているにも関わらず、あたりに人の気配がないか目と耳で確認する。
当たり前だが、ここは自分と彼しかいない。

瞳を閉じて待つ彼に素早く口づけた
ほんの少し触れるだけのキスだった。

唇の柔らかさや温かさなど感じる余裕もないほどのものだったのに、彼は閉じていた瞼を上げると笑いかけてきた。

「へへっ。」

顔つきは子供そのものなのに、普段の彼と変わりはない笑み。今は自分の方が見かけだけだが年上になったはずなのにいつもと変わらないどこか余裕のある彼の態度が少し悔しかった。悔しさを紛らわせるために彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でるとさらに笑い声をあげて笑った。

「はは、くすぐったいなぁ!!」

彼は降参とばかりに両手を上げてきたので頭を撫でるのをやめる。
先程までのしおらしかった彼はどこにいったのやらと呆れていると彼は背に回していた手を自分の肩に置き、腰を浮かせてそのまま下から唇を重ねてきた。
突然の口づけに驚いて彼を見下げると、悪戯が成功したような笑顔を向けていた。

「スコールのおかげで不安が吹き飛んだからお返し。ありがとなー。」

再び大人しく腕の中に納まられ、彼はそのまま手を伸ばしてカップを手に取ると冷めたカフェオレを飲みはじめた。
どうやらしばらくこのまま腰を落ち着けるつもりなのだろう。両膝の間に腰を落とし、自分の胸を背もたれにして寛いでいる。ふわふわ髪が揺れ、時折鼻歌を歌っている。どうやらいつもの彼に戻ってくれてよかったと安堵した。

しかし、安堵したと同時に彼をどうやって元気づけようかと考え、集中していたはずの思考が余計な方へと向かっていく。

先程の彼からのキス。
柔らかく細くて小さな身体を抱きしめているだけではそうは思わなかったが口づけはまずかった。もっと彼に触れたいという欲が首をもたげはじめている。
自分は少年愛者ではないが、見れるとは思わなかった想い人の愛らしい姿や仕草。大きくなってしまった服から覗く手足や肌に今更ながら鼓動が高鳴り、照れから頬が熱くなるのを感じた。

「・・・もっと触れたいと思う俺はどうかしているのだろうか・・・。」
「え?何か言ったかぁ?」
「・・・別に。」

大きな瞳を瞬かせながら聞いてきた彼に平静を装ってごまかした。いくら中身は成人男性でもさすがにこの身体の彼に手を出すのは倫理上よくない気がする。
そもそも彼の護衛役として残らされているのは彼をはじめとする仲間達が自分を信頼し、そのように考えるとは思いもしないからだ。

バッツの身体が元に戻るまで自分自身と彼のためと、仲間たちの信頼を裏切らないように試練の日々を送らなければいけないと思うと今度はそちらで頭が痛くなりそうだった。


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17歳×20歳よりも怪しい気がしてしまいます。
ブログでぼやいたネタに拾ってくださった方がいらっしゃいまして・・・調子に乗ってしまいました;


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