局地的な暴風雨がこの街を襲った。月に一度、毎度毎度襲来するものだから、街の人間はもう慣れていた。もちろんわたしも。
この現象が起こる原因の一端はわたしにあるのだが、わざわざ言うことでもないし言わない方がいいこともこの世には沢山あることも知っているのでこうして雨に打たれている。
……カッコつけてみたが、端から見たら骨の折れた傘を持ったただのずぶ濡れの女である。
「安物なんか買うんじゃなかった……」
水に体温を奪われて身体が震える。早く帰って風呂に入らないと風邪ひきコース直行だ。真冬でなくてよかった。
「ただいまー」
おそらくいるであろう不法侵入者に向けて、声を張る。微かにテレビの音が聞こえる。
捕まったら最後、離してもらえないような気がするのでさっさとシャワーを浴びてしまうことにしよう。
「ただいま」
「遅かったな」
「誰かさんのお陰でずぶぬれだったもので」
ここは自分の住処だとでも言いたげに尊大な態度でソファーに腰掛けるルギア。……ここはわたしの家だった筈だ。
がしがしとタオルで頭を拭く。面倒くさがり屋のわたしはこの作業が結構嫌いだったりする。
「今回はいつまでいられるの」
「今まで通りだ」
ルギアはテレビを消してわたしに手招きをした。番組がつまらなかったからって何もリモコンを投げることはないでしょうよ。壊れたら弁償してもらおう。
隣に座れば、おまえの場所は其処ではないとばかりに引っ張り込まれ、ルギアの腕の中に。
「……付き合いたてのカップルじゃないんだから」
「阿呆。普段会えない分密着しようとは思わんのか」
「はいはい、寂しかったんですね」
彼の住む場所がどんなところかは知らないが、きっと寂しいところなんだろう。
深く、暗い海の底で一人きりとは、一体どんな気持ちなのか。地上でしか生きられないわたしには一生を使っても理解しきれないことだ。
彼――ルギアは月に一度、暴風雨を引き連れてこの街、というよりもわたしの家を訪れる。
羽ばたくだけで嵐を起こすと伝えられている存在が街に来ても大丈夫なのかと思ったが、ルギア曰わく「伝承は大体において話が大きくなって伝わっている」から心配ないらしい。暴風雨を連れてきている時点で心配ないも何もないと思うのだが。
「外、出られないよね」
「構わん。三日くらい家に籠もっていろ」
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そろり 様に提出。
素敵なお題をありがとうございました。