大嫌いだった。頂点に立つ実力があるくせに姿を眩ませて、見つけたと思ったら自分を超えるトレーナーを待っているという始末。正直嫌いを通り越して呆れていた。そんな話を友人にしてみたら「じゃあ相手にしなきゃいいじゃない。」と一括された。確かにその通りなんだけど放ってはおけなかった。

「レッドさん、バトルしてください。」

キッっと目を細めて言えば彼は表情1つ崩さず立ち上がった。いつもこれがバトル開始の合図。腰に携えた6このボールのうちの1つ手に取り宙に放る。彼もまた同様に動いた。赤い光に包まれ私の目の前に現れるのはフシギバナとエテボース。こんな巨体が私の手のひらに収まるほどの球体1つに収まるのが、昔は不思議で仕方なかったけど、今は日常の風景に溶け込んでいる。慣れって怖い。





負けた。何度目の敗北かもわからない。悔しいけど、初めての敗北ほど辛くもない。こんな慣れが悔しい。レッドさんは私のシャワーズを破ったピカチュウを、微かに口角をあげて撫でている。そしていつものようにボールからリザードンを出して跨がると、私に乗るよう促す。手持ちが全滅の私を彼はいつもふもとのポケセンまで送ってくれる。酷なんだかやさしいんだか。
ポケセンまでは割とあっという間で、いつもなら私は適当なお礼を言ってレッドさんは去る。なのに今日は手首をがっちり捕まれたまま離してもらえない。

「え、あの…」

「また、来る…?」

「あ、当たり前です!勝つまで行きます!」

強めにそう吐くとレッドさんは優しく微笑んで耳元で囁くように言った。

「待ってる。」

その後去っていくレッドさんを火照る体で見つめたとき、私は感情の意味を知った。


「あ、好き。」
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