そう遠くない過去、何事にも自分が一番でありたい、そう願い続けてたくさんたくさん努力してきた女の子がいた。名前を名前という。彼女はその強さを維持するためにずっと人となれ合わずただひたすら自分のために必死になった。バトルで負けたくないだから負けない、ただこの場所を守るために彼女は彼女の鉄壁を守るのだと心に決めていた。
名前の頭の上に存在するクラウンを誰かに消してもらう日まで。

彼は嘘が上手。本心がばれて欲しくなくて笑顔と嘘で全て覆いつくしていく。心の中で後悔してはいるけれど、やはり嘘をついてしまう彼、名前をトウヤという。その積み上がる程の彼の吐き出した言葉はどれも、彼自身にはごみだらけ。それでも嘘をつくのは本当の自分を知られるのが怖いから。というより、見破る人が来ないから諦めたのだろうか。
だからトウヤの心の舞台に踊り続けるクラウンがいつしか消える日まで、彼は彼自身のために嘘をつく。


ばったり。例えるならそう、二人は何気ない道路で出会う。トレーナーである以上目が合えばバトルは必須。
女の子は意気揚々と自慢のポケモンを取り出した。逆に男の子はにっこりと何を考えているか分からない顔でポケモンを取り出した。

「君、名前は?」
「本当はどうでもいいのに、名前を聞くんだね名前って。」
「君こそ、他人のことなんか興味ないくせに、私の名前知ってるみたいだね」

男の子は誰にも分からない程度の驚きを見せたが、名前は元々男の子の顔を見てなかったようでほっと静かにため息をつく。彼にとってはその一瞬であっても他人には気づかれたくないらしい。だから前もって調べられるだけのトレーナーを全て調べて、動揺しないように身構えている、はずだった。

「僕の名前はトウヤ。一応バトルトレインでは君より先に名を残させてもらってるよ」


お決まりの挨拶をして、にこりとトウヤは笑った。先程と立場は変わって苦虫を潰したような顔をした名前は、どうにもならない記録を憎く思う。

「私が先にトレインに着いていたら、私の方が先に名を残せたの。ただそれだけでしょう?私の名だってあるよ」

彼女にとってその記録は生涯続く悔しい思い出である。
そんな彼女の態度を見て、隠したいものを持っているのは自分だけではないとトウヤは安心した。

「ねぇ君、本心をいいなさい。私の前で薄気味悪い嘘ってみんなばかみたいなの」
「君っていわないでよ名前。そんな態度じゃ、どうせ友達いないんでしょ?」

いつの間にかバトルどころではない言い合いになっていることに二人はまだ気付いていない。それだけ本心を言い合ってるということだろうか。

「私に強く言ったって、負けるんだから。喋らないでそんな偽物の言葉で」
「ふ、あはは!何か僕名前のこと好きだ。」
「は!?突然何を。嘘なら嘘といわないと分かってやらないから!」
「本心だって分かってるでしょ?」

名前は明らかに動揺している。初めて好きだと言われた、ただそれだけの大切な事実で。トウヤはそれを満面の笑みで見ている。名前とは違い彼はすっきりしているようだった。初めて自分の嘘を嘘だと気づいて尚且つ自分の本心を問われたから。



聞こえただろうか。トウヤの嘘でぼろぼろだったクラウンが名前の硬い硬い金属でできたクラウンを奪って消えた音。自身のクラウンを無くした二人は今現在、どうなったと思う?


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