ソウリュウシティを抜け、シリンダーブリッジへ向かう道を通るといつも、ポケットの中が揺れた。
「はいはいわかったわかった、ちょっと待ってねロトム」
どうやって感知しているのかはわからないが、うちのロトム…私の一番の相棒は、ここR9の前に来るといつも騒ぎ立てる。
いらっしゃいませ、というフロントの挨拶に笑顔で返し、向かうのは在庫やら何やらを置いている場所。
「今日はどれがいいかなー…」
早くもカタカタとボールを揺らし、待ちきれないとばかりに私を急かすロトム。次のジム戦の為には、電気タイプに有利なものを選ばなければならない。
「…あ」
そんなタイミングで、幼なじみからライブキャスターに連絡が入った。なんでも“セッカのジムで超可愛いポケモンを見つけた”らしい。
「あんたって変な趣味よね」と言えば、単純な性格の幼なじみは何やらギャーギャーと騒ぎ始めた。
「はいはいわかったわかった、あたし今からライモンジムだからまた今度ね」
「あっ名前ちょ待っ」
プツン。一息にそう言って、一方的にライブキャスターを切る。まともに相手をしていたら、何時間ここに立ち尽くす羽目になるかわからないのだから。
そうこうしているうちに、我慢出来なくなったらしいロトムがボールから飛び出した。
「あ、…ほらほら、もう少し待ってなさい」
そう言うと、物欲しそうに目の前の家電を見つめるロトム。
「ウォッシュ…は論外だし、ヒートもイマイチ決定力に欠けるなぁ」
洗濯機の前から電子レンジの前、扇風機の前へと飛び回るロトム。すぐにでも入る準備は出来ていると言いたいのだろう。
「そっか、確かエモンガを使うって……じゃあ、フロストロトムがいいわね」
そう呟くや否や、ロトムは元気よく鳴き声をあげて冷蔵庫へ飛び込んでいった。
ガタガタ、と冷蔵庫が動いたと思うと、姿を変えたロトムが現れる。ひやりとした風が、こちらに吹き込んでくる。
「よし。じゃあ行こうか、ロトム」
外に出れば、夏真っ盛りの暑さがだらりと降りかかる。思わず肩を落とした私は、すぐに心地よい冷気に気づいた。
「…ロトム?」
フロストロトムになったその体から、冷たい風が送られてくる。
「ありがとう、…この姿になったのはラッキーね」
嬉しそうに扉を開閉させるロトムは、ふわふわと飛び回りながら涼しい風を振りまいた。
「……あ、こおりタイプ」
私の声に振り返ったロトムが、不思議そうに首(体?)を傾げた。あなたのことじゃないよ、と言えば、また楽しそうに扉を開け閉めし始める。
「あいつ…確かセッカジムって言ってたわね」
探し出す!とか意気込んでたけど、こおりタイプが夏場に出るのかしら…と考えながら、ポケットからボールを取り出す。
「ムクホーク、ライモンまでお願い」
鋭く一つ鳴いたムクホークに飛び乗ると、まだはしゃいでいるロトムをボールに戻してライモンシティへと向かった。
なんだかんだ人のことは言えない。私だってロトムには一目惚れしたのだった。
シンオウ地方の友達のところへ遊びに行った時、彼女の手持ちの中にいたロトムを見て惚れ込んだのが始まり。
ちなみにその時、ロトムがプラズマを纏っていることを知らずに抱きしめようとして、思い切りまひしたのもいい思い出。
それからこのムクホーク…正確にはムックルと出会い、一緒にロトムを探して回った。真っ暗な洋館を探索した時には、もう諦めようかと思った。まあ、そこで見つけたんだけど。
確かあの時は、シンオウの友達に捕まえ方を教えてもらったんだっけ。
「…仕方ないなぁ」
ライモンシティの遊園地の中、ジェットコースター乗り場を背に呟く。
ライモンジムでは何とか勝利、やっぱりエモンガに対してフロストロトムを選んでいたのが正解だった。今だってほら、ロトムは得意気に笑って、歌まで歌いだしている。
「さあロトム、次はホドモエシティよ」
答えるように威勢良く鳴いたロトムが、またしても私を急かす。
「はいはいわかったわかった、今度はウォッシュロトムね!」
とりあえず、その「ジオーって言いながら飛んでる感じが可愛い」ポケモンの捕まえ方がわかったら、彼女に教えてあげよう。
きっと、その子との旅は今よりずっと楽しいに違いないのだから。私とロトムが、あそこに行く度に次の冒険を思ってワクワクしてしまうように。
「さあ行こうかロトム、」
物品庫!
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