初めて見たのは、セッカシティでのこと。ハチクさんのジムで使われていた、そのポケモンに私は雷を撃たれた。わざではなく、比喩的な意味でだ。
「あのねあのね!フリージオってポケモンが超可愛かったんだ…!!」
「名前っていっつも変な趣味だよねー」
ライブキャスターで友達に話したら、バッサリそう言われた。
「変じゃないよ!!可愛いよ!!あのジオーって言いながら飛んでる感じが可愛いよ!!」
「はいはいわかったわかった、あたし今からライモンジムだからまた今度ね」
一方的に切られたライブキャスター。砂嵐になった画面を眺めて、私はただ口を尖らせた。

生息地は、ハチクさんにバッチリ聞いていた。
「来た来た来た、ネジ山だっ!待ってろよフリージオ!」
山頂に向けて吼える。作業員の視線を一手に集めながら、私は夏場にもかかわらず涼しいネジ山を登り始めた。
ここで大事なのは、私が山を登ったのが「夏」だったということ。

「……一匹もいない……」
その夜、セッカシティのポケモンセンターに戻るなりソファに崩れる。疲れきった足が今にも千切れそうだ。もしかしたら千切れているかもしれない。
そっと触って確かめたついでに揉みほぐしていると、ハチクさんがやってきた。
「あっ、ハチクさん!」
「ああ。君はたしか」
「あのーハチクさん、フリージオって本当にネジ山にいるんですか…?」
そう聞くと、ハチクさんは目を丸くしてから小さく噴き出した。何で笑われているのかわからないまま、私はぽかんと口を開けた。
「ハハ、…まさか、今日探しに行ったのかい?」
「え?はい」
「フリージオは氷タイプ。夏の暑さは苦手なんだ…冬の方が見つけやすいよ」
「………うえええええ!?」
お疲れ様、と笑ったハチクさんが、持っていたモンスターボールを開いた。
「フリージオ、弱めにこごえるかぜ」
涼しげな鳴き声をあげたフリージオが、私に心地良い風を浴びせる。思わず顔を綻ばせていた私の肩に、ハチクさんの手が置かれた。
「頑張りなさい。愛を持って迎えれば、いつか会えるさ」
「…はいっ!!」



そして、あの日から三年。



「………愛が足りないのか…?」
毎冬、ネジ山に訪れる。もしかしたら今日会えるかも、と毎日走り回りながら思って、三年が経ってしまった。
「諦めない…私は諦めないよ…!」
雪がちらつく今日も、私はハイパーボールを握り締めネジ山を見据える。
「いざ出陣っ!」
「ちょっと待ちなさい」
「ふぐぇっ?!」
後ろから襟を引っ張られ、首が締まる。慌てて振り返れば、そこには仁王立ちの友達がいた。
「な…なによ!フリージオは可愛いんだから!」
「はいはいわかったわかった。今日は名前の語りを聞きに来たんじゃないの」
ごそごそと鞄を漁る友達は、奥の方からむしよけスプレーを取り出し私に差し出した。
「…え?」
「あんた、レベル31のポケモン持ってる?」
「え?え?」
「レベル31のポケモンを先頭にして、むしよけスプレーを使う。噂に聞いたんだよ、フリージオの捕まえ方」
「……こ、心の友よォォオ!!」
実はちゃっかり優しい友達に、嬉しさのあまり熱いハグをかます。
いよいよ間近になったフリージオとの邂逅を思って、心拍数が上がるのがわかった。
「それじゃ、行ってくる!!」
「はいはい、頑張ってね」
呆れ顔の友達と別れ、ネジ山を登る。この二年で足腰はかなり鍛えられたし、それに“いかにもフリージオがでそうなポイント”も見つけた。
「ここで…むしよけスプレー、と」
レベル31のエモンガを先頭にして、むしよけスプレーを使う。期待を込めて、部屋の中心の凍った岩へ一歩一歩近づいた。
『ジオー』
「っ!!」
凍った岩の影から、一匹のフリージオが飛び出した。私はすぐさまエモンガを繰り出すと、でんじはでまひさせてハイパーボールを投げた。
カタカタ、揺れていたボールが止まる。
「…ぃやったぁぁあ!!」
エモンガと手を取り喜び合う。急いでまひなおしを使い、フリージオをボールから出した。
『ジオー…!』
「あぁー…やっぱり可愛い、フリージオ!」
『ジオー!』
「一緒に頑張ろう、フリージオ!」
早速懐いてきているのか、フリージオが体を寄せてくれた。冷たくて寒いけど、とても気持ち良かった。



「なんてこともあったねー」
あの日から三年。自分で言うのもなんだが、大人になった私は今や立派な相棒のフリージオに向かって笑いかけた。
ネジ山は相変わらず真っ白で、三年前にここでフリージオと出会った瞬間を、今でも思い出させてくれる。
『ジオー…』
フリージオは今でもあの日のように、体をすり寄せてくる。
「今年も雪がたくさん降るね」
『ジオー!』
果たしてどれだけの人が、この降り積もる雪の中からフリージオを見つけられるのか。
「積もった思いは雪より強かった、ってことかな」
なーんてね、と照れ隠しに言えば、フリージオは不思議そうにこちらを見て氷の鎖を揺らした。



3年間の積雪


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