「腹へった」

ぽつり、チャンピオンの椅子に座りながらそう言葉を零した。見上げた空は真っ青だった昼と打って変わり飲み込まれてしまいそうな黒。散りばめられた星屑がキラリと光る。

だいたい七、八時くらいってとこか。て言うかそんな時間帯に挑戦者なんて来るはずないだろ。ぽつぽつと浮かび上がる不満に苛立ちが募って終いには爆発してしまいそうだ。ああ、名前に会いたい。そう言えば昼もこんなこと考えてたな。…おい俺、どんだけ名前が好きなんだよ。何となく、この場にあいつが居ないのにもかかわらず恥ずかしくなって立てた膝に顔を埋める。その時にふわりと香った洗剤の匂い。俺の好きな匂いだ。

「…腹、へった…」

ぎゅるぎゅると鳴り出した俺の腹。どうやら相当限界に近付いているみたいだ。名前の手料理が無性に恋しい。唐揚げ食べてーな…作って来てくんねーかな…無理だよな、流石に。

「………、…名前…」

俺しか聞き取れないぐらいの大きさであいつの名前を呼ぶ。あ、駄目だ。会いてえ。

「ケンホロウ、頼んだ」

会いたいと思ってからの行動は早かった。チャンピオンの定位置から降りて腰に付けたモンスターボールからケンホロウを出し素早く跨がる。こいつもよく分かっていたようで、俺が乗りやすいようにと頭を下げてくれていた。何て良いヤツなんだケンホロウ。お前最高。

「お前が出せる全力で飛べ」

俺がそう言うとケンホロウは夜の街によく響く声で鳴いた。うん、ちょっと近所迷惑かもしれない。が、今の俺にはそんなことどうでも良いんだ。

全力で、と頼んだケンホロウは俺の期待以上に速くイッシュを飛んでくれた。きっとこいつに速さ対決で勝てる者はいないってくらい速かった。もう一度言う。お前、最高。
俺の期待に応えてくれたケンホロウにお礼を言いボールに戻す。

さあ、愛しの名前はこの扉の向こう側に居るぞ。



…愛しのってのは、ちょっとクサかったか。
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