手が二本に足も二本ある。目が二つと耳も二つあって、鼻は一つ。
僕達は羽がないから空は飛べないけど、二足歩行で陸地を歩く動物だという共通点。

こんなにも名前との共通点があるのに、人は僕と名前の間に境界線を引く。勝手に引く。
人間とポケモンという境界線。

でも人が勝手に引いた、僕と名前の境界線を気にしている僕がいる。


「あら?紙と鉛筆なんて持ってきて、どうしたの?」

机に向かって、勉強をしていた名前と僕の間に紙を置いて、座り込む。
そして、乱雑に一本の線をひいた。
一気に悲しくなる。泣きそうになった。涙は、出ないけれど。

―…怖いんだ。
僕は人間とポケモンという境界線が名前との間に隔たりを作り出してしまう気がしていて。ただそれが、怖い。

人間になりたいよ。名前の隣にいられる人間になりたい。そうすればこんなに悩む事も無いのに。

「ミミロップもお勉強?」

名前は笑いながら僕の頭を撫でた。僕の引いた乱雑な線など、通り越して。

その行為は一気に僕の不安なんて、消し去った。隔たりなんて、境界線なんて無いんだって言ってくれている様に思えた。
それは名前が凄いのか、僕が単純過ぎるのか。

名前に僕の言葉は通じない。けれど何でかな、名前は僕のして欲しい事とか、色々解ってくれる。言葉のパラドックス。

なんだか嬉しくて、僕は名前の胸に飛び込んで、ぎゅうぅっと抱き締めた。


手が二本に足も二本ある。目が二つと耳も二つあって、鼻は一つ。
僕達は、生きている。左側にある心臓は動き続けているという共通点。

あの僕と名前の、乱雑な一本の境界線を書いた紙など、丸めてゴミ箱に捨てた。

もう人が勝手に引いた、僕と名前の境界線など、気にしている僕はいない。


境界線
(言葉なんて要らなかった)


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