キャタピーだったころ、あなたのプニプニとした体が嫌いでした。
体当たりと糸を吐くことしか出来なかったけど、あなたは一生懸命戦ってくれました。
トランセルだったころ、鎧の体と、たまにピクピクと動く尾が嫌いでした。
二つの技とかたくなるで、あなたはどんどん強くなっていきました。
そして、バタフリーになった今、あなたの羽が嫌いです。
鱗粉が嫌いです。
触覚が嫌いです。
複眼が嫌いです。
あなたの姿が嫌いです。
でも、あなたは大好きなんです。
キャタピーだったころ、遅い足で私についてきてくれたとき。
トランセルだったとき、動けなくて静かに寄り添ってくれたとき。
バタフリーになった今、私と一緒にいてくれて、些細なことで一喜一憂して、一緒に戦って、勝って負けて、あなたといる毎日がとても幸せです。
なのに私はあなたが嫌い。
朝の日差しと共にあなたは起きる。キラキラと輝く羽はとてもきれいで、つい見とれてしまう。それと同時に感じるのは背中にぞわりとしたもの。
「おはよう、バタフリー」
私が声をかければ、あなたは大きな目を輝かせて私の周りをひらひらと飛び回る。
愛しさと同時に生まれた物は嫌悪。ああ可愛いなあ、ぶつぶつの目が気持ち悪い。
その複眼は私をちゃんとみているのか。
ボールに入れてしまえばいいのに、でもここは家の中、この子の好きにさせたい。
どうか、気付かないで下さい、私の醜い感情に。
「逃がしちゃえばいいじゃない」
これは前に私の心中を打ち明けた時に出た、友人からの答えである。
もっとも正解に近い。 私のようにどろどろと黒く、歪んだ感情を持たれるよりも、野生に帰り、もしくは一点の曇りもなく愛してくれる人の元に行った方があの子だって幸せだろう。
「#名前#ってわがままだよね」
あきれるように言われても私はこの子を手放す気にはならなかった。だから、曖昧に笑って誤魔化すという卑怯なことをやってしまった。
どうか許して下さい、私のわがままを。
僕が#名前#の肩に止まれば、彼女の体が少し強ばった。
彼女は僕をバタフリーにしてくれた人。僕の友達、僕の大好きな人。
君も僕と同じ気持ちなはず。僕が初めて戦ったとき、#名前#は僕を抱きしめて喜んでくれた。
トランセルに進化したらもっと喜んでくれて、最後の進化を終えた時、君は泣いた。
僕のために毎日あまいみつを用意してくれる。休みの日には僕の大好きなお花のいっぱいある所に連れていってくれる。
僕は#名前#が大好きだし、#名前#だって僕のことが大好きだ。
でも、君は好きと同じくらい嫌いの感情を持っている。
僕を見る目が笑っていなかった。
僕の頭をなでる手が固かった。
口元は引きつって、体はぶるりと震える。
とっくに気付いているけど、君が知ってほしくないみたいだから、気付かないふりをした。僕だってそんな顔の#名前#は嫌いだけど、笑っているときは大好きだから。
どうか純粋に愛してほしい。
君の嫌いが消えれば僕の嫌いも消える。そうすれば好きと嫌いの板挟みが無くなるんだ。
僕はいつまでも待っているから。