欠陥レンアイ
悲しい夢を見た。


飛び起きて周りを見渡すとまだみんな眠っていた。寝る前と変わらない状況にさっきのは夢だったのだとほっと息を吐く。
それにしても、これから五瀬さんと戦うというのになんて幸先の悪い嫌な夢を見てしまったんだろうか。
頬を撫でると涙で濡れていて、その涙の原因を探すといなくなってることに気付いた。


探していた人物はあっさり見つかった。
変わることのない夜空を見上げながら、おせんべいをかじっていた。

「多家良、どうした?」

足音に振り返った彼は私の顔を見てぎょっとする。涙を拭わずに来たからだろう。

「嫌な…夢を見ました」
「ほぅ、どんなだ?」
「私が芦屋さんを殺す夢」
「そいつはまた縁起でもないなぁ」

笑いながらおせんべいをかじる。
相変わらず何を考えているんだかわからない。この人の考えていることが透けて見えたらいいのに。そうしたらあの夢みたいになることは…。

「芦屋さん。私に隠し事してませんか?」
「そんなのしてないよ」

目も合わせずに肩で笑うと、おせんべいをもう一枚取り出して差し出した。

「ほら、やるよ」

その光景があまりにも夢に似ていて泣きたくなる。

「夢の中の芦屋さんも、最後におせんべいを半分こしてくれたんです」
「…」
「でも、ちっとも嬉しくなんかなかった!ねえ芦屋さん、本当に隠し事してませんか!?」
「してないよ」
「嘘!!」
「嘘じゃない」

嘘ばっかり。そんなの、絶対嘘のくせに。
いつも一人で考えて、私には何も教えてくれないで行ってしまう。

「なぁ多家良。夢の中の僕は死ぬ間際どんな顔をしてた?」

なんて残酷なことを聞くんだろう。本当に嫌な人。

「笑って…ました…」
「そうか」

止まらない涙にしゃくりあげると、困ったように「目が腫れるぞ」と笑った。

「おっ、ととと」

たまらなくなって思わずしがみ付いたら体制を崩して慌てて立て直していた。
かっこ悪い。私はどうしてこんなおっさんを好きになってしまったんだろう。

「足腰が衰えてるんじゃないんですか」
「おまえな…」

嘘ばっかりで、卑怯でずるくてわがままで。一緒にいると振り回されてばっかりで良いことなんて一つもない。
今だって、絶対にその腕が自分の背中に回ることなんかない。
そんなの分かっているのに、それでも私は…。

「大丈夫だ」

宥めるように頭の上に手を置かれて俯く。その大丈夫に根拠なんて何もないくせに。
本当にずるい。たったこれだけで幸せになってしまう私も馬鹿だけど。

「お前に殺されて終わるのも、悪くないかもな」

バカ。悪くないわけない。

「こっちの身にもなって下さい」

鼻声で言ったら、また笑う声がした。
お願いだから。
この想いに応えてなんて贅沢は言わない。
お願いだから、側にいて。

END

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