訓練:長男と執事と母


ゾルディック家の兄弟達は幼少の頃から暗殺者になるための英才教育を受けてきた。暗殺術の鍛練だけでなく日常的に毒を飲み、電流を浴び、様々な苦痛に耐えれるよう拷問の訓練もする。

それは女であるビズだって例外ではない。

ビズは特に毒に対する耐性に優れていてどんなに強い物でもビズには効かない…毒でビズを殺すのは不可能なのだ。

しかしそれは逆に言えばビズが女だから備わったものかもしれない。





「どう?ビズ」
「ちょっと気持ちが悪い…」
「うーん、まだまだか…」

それはまだビズが10歳にも満たない頃。
顔色悪く項垂れるビズを横目にまた明日から量を増やしてみるか、とイルミは手にする紙にサラサラと文字を書いた。

「これ、明日からビズの食事に足す量ね。朝昼晩毎食入れて」
「かしこまりました」
「じゃあ俺は行くから、残ってる分も全部飲むんだよビズ」
「分かったわお兄様…」

その紙を執事に渡すと具合の悪そうな妹を残しイルミは部屋から出ていった。残されたビズはイルミに言われた通りまだグラスに半分残っている無色透明の水…を飲み干そうと手を伸ばす。

「お嬢様、少し休んでから続きをしましょう」
「大丈夫よゴトー」
「いいえ、今はお止めください」

コップを掴むのに精一杯のビズ…このまま一気にそれを流し込めばビズは倒れてしまうかもしれないと思いゴトーが制止した。

「お兄様はこんな毒すぐに慣れたのに、私はダメね」
「なにをおっしゃいます、ビズお嬢様まだお身体が小さいのだから仕方がありません」

ビズは幼い頃から常にと言っていいほど毒を飲んで来た。毎日の食事に毒を混ぜて日々身体に慣らしていく。今回飲んでいるものもイルミと同時期に飲み始めたものだがイルミはもう耐性がついたようだ。それに比べビズはまだ身体に異常が出ており兄と比べ不甲斐ない自分をビズは情けないと思う。しかし見守るゴトーとしてはイルミはビズよりも年上だし性別だって男だし身体の作りが仕方ないのだからと思いビズを気遣う。

「それに…」
「なあに?」
「…いえ。さぁお嬢様、少し身体を倒しお休みになられてください」

ゴトーは知っている。ビズは今飲んでいる毒はイルミが飲んで克服した物と同じだと思っているがそれは違う。ビズが飲む物はイルミが飲んでいた物より毒素が強く量だって元から多いのだ。

それはビズが女だからと言う理由があってイルミが勝手にやっている事ではなくシルバやキキョウ、両親の考えあっての方針だ。

まだ幼く暗殺者としての腕はまだまだであるがこれから鍛練していけばビズだってイルミに劣らないぐらいの暗殺者にはなるだろう。

しかし心配なのは、ビズが女だと言う事だ。

女と言うだけで男よりも危険な目に合う事はあるだろう。もし捕まりでもして拷問されたら…それが女としての心が壊れてしまうぐらいの凌辱をされてしまったら。娘がそんな目に遭うのは考えたくもないが、そうならない為の、そうなった時の訓練だってせねばならない。

だからビズはどんな毒を飲まされても身体に少しの影響も出ないよう耐性を付ける必要がある。今はまだ幼くイルミら兄弟と同じ毒を飲み訓練しているがもう少し身体が成長すれば催淫剤等の訓練も始まるだろう。そして行為に対する耐性を付ける為の訓練も。

ビズは「耐える」という訓練を他の兄弟達よりも何倍もせねばならぬのだ。





その訓練が始まったのはビズが年頃になった頃だ。
天空闘技場で体術を鍛えたビズは家族の暗殺家業を何の支障もなく手伝えるようになっていてイルミからも「そろそろ一人で仕事しても良いんじゃない?」と言われるほど暗殺者としての腕があがっていた。そこで、いよいよビズだけの特別な訓練が行われる事になった。

その日ビズは母に呼ばれた。キキョウに呼ばれ部屋に行くといつになく真剣な面持ちの母がいて、ビズちゃんこちらにと言われビズはキキョウの前に腰を下ろす。

「ビズちゃん、今日はとても大事な話があります」
「はいお母様」

ここに来る前から今日は普段と様子が違うなとビズは感じていた。普段通り夕食を済ませた後、母はビズにだけ伝えるように部屋に呼んだ。他の兄弟に聞かれないようにと言われた訳ではないがビズにだけコッソリと言う母を見てビズも何か感じたようだ。

「お仕事の話だけど、近頃ビズちゃんもとても頑張ってるみたいね。イルミが褒めてましたよ、ビズもそろそろ一人で仕事をさせても良いと」
「…本当?お母様」
「ええ本当よ」

兄に直接褒められた事はなかったから母伝えにそう言われビズは嬉しかった。

「だから一人立ちする為に、また新たな訓練を始めなければなりません」

それはどういう訓練なのか、年頃になったビズはなんとなく分かった気がした。だから他の兄弟に気づかれぬようコッソリと話があると言ったのかと納得する。

「それはビズちゃんにとって…今までで一番辛い訓練になるかもしれません」
「はい」
「でもそれは意地悪ではないの、ビズちゃんには必要な事なの」
「はい」
「分かってくれますね」
「はい、お母様」

いつかその訓練をする日が来る事をビズは分かっていた。小さい頃から毒を飲んでいたように、電気を浴びていたように、様々な痛みを与えられていたように、それも避けては通れぬ道なのだ。ビズが女でありながら暗殺家業をするにはそれは絶対に慣れなければならない。

「詳細はまた後日改めて話すから今日はもうお部屋に戻っていいわよ」
「はいお母様、おやすみなさい」

そう言って部屋を出るビズは意外にも平気な顔をしていた。呆然としているとか何か考えている風ではなくキキョウの話を真剣に聞いて、最後はニコリと笑い静かに部屋を去っていく。そんなビズを見てキキョウは少しホッとしたのだった。





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