お買い物:執事


「次はあの店が見たいわ、行きましょう」

デントラ地区にある栄えた繁華街。仕事で外に出る事はあってもプライベートな外出は久しぶりであるビズは目当ての店を見つけると道を行き交う人々の間を足早にすり抜けていく。

「ビズお嬢様お待ちください」

ビズを見失わないようにその後ろを付いてくるのは執事のゴトーだ。

「ゴトー早く早く」

買い物をするのは久しぶりだからニコニコと笑うビズはとても可愛らしい。そんなビズを見て思わず振り返り見とれてしまう者も居るがまさかビズがゾルディック家の人間だと気づく者は一人もいないだろう。

「あっこのスカート可愛い。色違いで買おうかしら」

ビズはそこらの年頃と娘と同じように買い物を楽しんでいる。ただ仕えるゴトーだけはビズだけを見ているようで周囲への警戒を怠らずビズを見守っていた。最も、ビズに危険が降りかかったとしてもそれはビズ自身で解決出来る程の能力をビズは持っているのだが。

「お気に召す物がございましたか?」
「うん、これ買うわ。あ、でもまずあっちの店も見ていい?」
「勿論でございます」
「…ねえゴトー」
「はいお嬢様」

ビズはショーウィンドウから視線を移しゴトーの隣にやって来る。

「二人で買い物なんてまるでデートね。周りから見たら恋人同士みたいに見えてるかしら?」

ニコニコと笑顔のビズ。

「まさか。ビズお嬢様はゾルディック家の御息女、そして私はただの執事です。恋人同士に見えるはずがありません」

それとは反対に顔色一つ変えずに答えるゴトー。ゴトーの返事を聞いてムッとしたビズだがゴトーの言う事は間違っていない。ビズとゴトーはあくまで雇用主と執事…恋人同士に見えるだなんて執事であるゴトーからすれば滅相もない事である。ビズだってゴトーがそう言う事ぐらい分かっていただろう、しかし動揺もせず予想通り真面目に返された事に少し寂しさを感じた。

「ゴトーの馬鹿」
「お嬢様?」

ビズは拗ねたようでプイと踵を返すとスタスタと歩き出す。ビズお嬢様と呼ぶゴトーの声を無視して人混みの中へと入っていく。

「お待ちください、一人で行かれてははぐれてしまいます」

ゴトーも慌てて追いかける。そしてビズのすぐ隣までやって来たところで。

「それなら」
「お、お嬢様!」

ビズはスッと手を伸ばしてゴトーの腕に自分の腕を回した。

「こうしていればはぐれないわ」
「しかし、このような事は…」

ゴトーの腕に寄り添うようにピタリとくっつくビズ。人の多い通りで通行人の目もあると言うのにまるで恋人同士のようにくっついて、ゴトーは人目がありますと慌てるがビズは平然としたままニコリとしている。

「はぐれたら困るんでしょう?ちょっと目を離した隙に私が誘拐でもされたらどうするの?こうしていれば安心じゃない?」
「ビズお嬢様…」
「ね、そうでしょう?」
「…はい、そうでございます」

ゴトーは観念したのか、ビズが進み出したから腕を組んだ二人は並んで歩いている。

「ねえゴトーは私の事好き?」
「勿論でございます」

唐突の質問だがゴトーは迷う事なくそう答える。

「いつもワガママなのに?」
「ビズお嬢様はワガママだと思った事は一度もございませんよ」
「本当?いつも迷惑ばっかりかけてるって思ってない?」
「思うわけがありません。ビズお嬢様と過ごさせていただき大変光栄です」

ビズとゴトーは恋人同士には見えないかもしれない。だがビズはこうしてゴトーと腕を組んで歩けるだけでとても嬉しい。

「私ゴトーの事好き」

執事は、雇用主に個人的な感情は持ってはいけない。

「ゴトーの事大好きよ」
「ビズお嬢様…」

持ってはいけないのに、このお嬢様のせいで、時々気持ちが揺らいでしまうのだ。



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