01

ろくは、不幸な少女だった。

生まれた家はとても貧しく毎日生きていくのがやっとの生活…たった一枚の着物は継ぎ接ぎだらけでボロボロだしいつだって腹を空かせていた。
兄弟はおらず唯一の家族である両親も物心付かぬろくに「お前が女で良かった、女は売り物になるからな」と言ってくるような心無い人間であった。

だが不幸なのはろくだけではない。

貧しいのは村全体の事で余所の家も似たようなものだった。だからろくが13歳の時に村の近隣の娘達を含めた5人がまとめて遊郭に売られてしまった。

ろくの家は母は元々身体が弱く父も大変な怪我をして働き手が居なくなってしまったからだが、余所の娘達も親が作った借金を返す為だったり働けない両親の代わりだったりと同じような境遇であった。

仕方なく娘を売りに出し泣く泣く見送る家族達が居る中、ろくの両親だけは「ろくがめんこい娘で良かった、ろくは高値で売れたよ」と見送りに来た近所の老人に嬉しそうに話ながら手を振っていてそれがろくが最後に見た父と母の姿だ。

どこに行くのか聞かされぬまま女衒に連れられて街を目指す娘達…途中とある峠に差し掛かると休憩にしようと道の端に腰を下ろした。そこでろくより二つ年上の娘が遊郭ではどんな事をされるのか話してくれた。

「遊郭に入ると毎日毎日好きでもない男の相手をさせられるんだ…時には病気にだってなるかもしれないし辛い日々に耐えかねて自ら死んでしまう娘もいる。中には身請けされる女も居るかもしれないけど、きっと私達のような田舎娘には無縁の離しだわ。そこに入ると…一生出る事はなく死んでしまうのよ」

それは世間知らずの娘達にとって、とても恐ろしく残酷な話で皆がシクシクと泣き出した。だけどろくは泣かなかった。泣かなかったがそんな風になるのは絶対に嫌だと思った、病気になるのも死んでしまうのも、絶対に嫌だと思った。だから女衒の隙を見て、ろくは一人逃げ出した。

村に帰る事の出来ないろくは行く宛も無いままひたすらに逃げた。振り返ることもせずただただ一心不乱に走り続けて、草履が脱げて裸足になった事にも気付かず走り続けて、いつの間にか山の中にはいっていたがそれでもろくが止まる事はなかった。

そしてどれ程走り続けただろうか、陽が落ち辺りが暗くなった頃ついにろくは膝をつきその場に倒れこんでしまった。腹も空いたし喉も渇いた…動かし続けた足は擦り傷や切り傷で少女の足とは思えないぐらいにボロボロ…。

「もう、歩けない…」

ポツリと呟かれた言葉はとてもか細い。だがここは山の中…倒れる少女に手を差し伸べてくれる人は誰もいない。見知らぬ土地に一人で居るろくは意識がぼんやりとしながら自分の人生を悲観した。
嗚呼楽しいことなんて何も無かった、なのにこんな所で死ぬなんて。だがこれから待ち受けていたであろう事を考えると、男達に弄ばれる事を思うとここで終わってしまった方がマシかもしれない…ろくはその思いながらソッと瞼を閉じた。

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