「やっと見つけたぞォなまえ」
「実弥!?」

ニヤリと笑う不死川実弥とは反対に眉間に皺を寄せ思いっきり苦い顔をするなまえ。不死川の姿を見るなりクルリと背を向け逃げ出そうとしたなまえだが不死川は素早く手を伸ばし彼女を捕まえた。

「逃がさねーぞなまえ!観念しろォ!」
「離しなさい実弥、そんな事をして不利になるのは貴方の方だと思うけど?」

なまえの背後に立ち片方の腕をなまえの首に回しそしてもう片方の腕で彼女の細い腕を掴んでいる不死川。この状況からして不利なのはどう見てもなまえの方だろう。だがなまえに言われ不死川が顔を上げれば周りには沢山の通行人…。そうだ、ここは街で一番大きな通りだと言う事を忘れていた。通り行く人々はか細い女を捕まえる傷だらけの男を何事だと言う目で見ている。ここでなまえが悲鳴を上げれば間違いなく悪者にされてしまうのは不死川だろう。フフフと勝ち誇ったかのように笑うなまえに不死川は苛立つように舌打ちをした。

「ほら、分かったらさっさとこの腕を下ろしなさい?第一、私が何したって言うのよ」
「何しただとォ?!この性悪女ァ、お前のせいで俺は警察に突き出されるところだったんだぞォ!!」
「あら、それはごめんなさい?」

一旦腕を離してこれでもかと掴みかかるように向き合うなまえの肩を不死川が抱くと、なまえは悪びれた様子も無くケラケラと笑った。そんな彼女を見て不死川は怒りと通り越してハァとため息をつくしかなかった。

「…なまえ」
「ん?」
「お前は…昔からちっとも変わっちゃあいねェな」

不死川はなまえの事を昔から知っていた…と言うのもみょうじなまえは不死川実弥の幼馴染なのだ。同い年の実弥となまえは昔は良く一緒に遊んだ仲だったがお互いが幼かった頃になまえら家族は余所へ引越しそれから一度も会う事もないまま二人は大人になってしまった。だが昨晩偶然にも再会しなまえも実弥もそれはそれは喜んで話ながら夕飯でも食べようと言う事になった。不死川は鬼狩りの任務でこの町に来ていたからあまり羽目は外せなかったものの多少の酒を飲み久しぶりに再会した幼馴染との話に盛り上がってしまったせいか途中で眠り込んでしまったようだ。
そしてしばらく時間が経ち「お客さん」と店の主人に起された時にはなまえの姿は無くなんと不死川の財布も無くなっていた。財布が無い事には支払いが出来ない…財布を掏られたと説明しても不死川の風貌を見て店主は怪しんだのか「この無銭飲食野郎め」と不死川を警察へ突き出そうした。結局寸での所で鬼殺隊の仲間がやって来て支払いは出来たから不死川は無事店主から解放されたのだがそこで不死川は思い出した、そう、なまえは昔から手癖が悪かったと。子供の頃も態度が横柄な大人の財布を器用に掏っては遊んでいた。いつかばれるからやめておけと不死川は心配したがなまえはいつだって大丈夫と笑ってばかりで、そして知る限りでは一度もばれる事がなかった気がする。なまえの手癖の悪さは大人になっても健在…いやあの頃よりも腕を上げた事だろう。だがそれならそれで良い。不死川は警察ではないしその生き方を褒めはしないがなまえが誰かに無理強いされている訳ではなく本人が望んでやっているのであれば不死川はとやかく言わない。

「…なまえ。俺はお前の事を十分知っているつもりだったが、まさか十数年振りの再会で財布を掏られるとは思わなかったぞォ」

しかし不死川はこんな時にまで、十数年振りに再会したと言うのに、なまえに裏切られるとは思わなかった。変わっていないと安心する反面、せっかく会えたのに財布を掏ったどころか挨拶も無しに勝手にどこかへ行ってしまうのかと思うと寂しかったのだ。

「お前には呆れたよ!」
「あら実弥、私の事嫌いになったの?」
「ああ。もう二度と、今後一切お前の言う事なんか信用しねェ」
「そんな事言わないでよ実弥」

自分を睨みつけてくる実弥の頬に細い指で触れながらなまえにニヤリと口角を上げる。

「私が気持ち良〜いしてあげるからさ…実弥が望む事なんでもしてあげるわよ?」
「この…!」

こういうところも、なまえは昔と変わらない。子供の頃からずる賢く嘘だって平気に付く、しかしその愛らしさ故かなまえを嫌う者はそう居なかった。なまえは自分の為に友達を裏切ったとしてもいざと言う時は助けてくれる…小悪党であっても大悪党にはなりきれない、なまえはそんな人間なのだ。

「なぁなまえ、躊躇なくお前をぶん殴る事が出来たらどれ程楽だろうなァ」
「ふふふ!そんな貴方が好きよ実弥!」

なまえが笑えばやれやれと不死川も笑顔になる。するとなまえは何か思い出したように顔を上げた。

「そう言えば。その格好、実弥は鬼殺隊なの?」
「あァ?お前鬼殺隊の事を知ってるのか」
「まぁね。鬼殺隊がこの街に居るって事は…近頃旅人を襲うと言う鬼を退治しに来たんでしょ。でもその鬼がどこに居るのか分からなくて困ってるんでしょう?」
「…なんでそんな事まで知ってやがる」
「ふふふ!私色んな情報を知っているの」

不死川はなまえが政府非公式の組織である鬼殺隊を知っていた事に驚いた、そして彼女が知っている情報に関しても。確かになまえの言う通りこの街を通った旅人が鬼に襲われると言う情報を得て不死川と隊士はやって来た。だが肝心の鬼はいつまで経っても現れず一体鬼はどこに居るのかと不死川らは頭を抱えていたが、なまえはそんな事まで知っているとは。

「じゃあ財布を掏ったお詫びとして鬼に関する情報を教えてあげる。鬼はね、ある盗賊団に匿われているのよ?その盗賊団は街を出て南東にあるお寺に潜伏してる。盗賊団の人間がこの街にも潜んでいるし、寺の人間もそいつらの仲間だから油断しないように気をつけてね」
「お、おいおいなまえ!どうしてそんな事まで知ってやがるんだァ。お前は鬼殺隊でも何でもないだろうがァ」
「私はね、生きて行く上にたくさんの情報が必要なのよ」

その言葉で不死川はなんとなく分かった。なまえが何を職業にしているのか分からないがその美貌と頭の良さ、掏りの腕などを生かし裏社会で生きている事には違いない。だから鬼殺隊の事も、噂の鬼の事も、なんとなくだが知っているのだろう。

「実弥の役に立ったかしら?」
「あァ、十分過ぎる情報だァ」

なまえの情報はとても役に立った。それだけ分かれば作戦も立てやすくすぐにでも行動に移せる。ありがとよと実弥がなまえの頭をポンと撫でるとなまえは満足そうにニコリと笑うとタッと歩き出した。

「さて、私はそろそろ行くわね」
「この街を出て行くつもりかァ」
「んーまだ街は出ないわ。やる事が残っているし、あと実弥が鬼にやられはしないか無事を確認したいしね」

このまままたお別れか、そう思った不死川だったがなまえがまだ街を出ないと聞いて安心する。

「そう言えば、玄弥くんは元気にしてる?」
「玄弥?誰だそいつは」
「誰だって、貴方の弟でしょ?不死川玄弥くん」
「俺に弟は居ねェ」
「またそんな事言って…兄弟なんだから仲良くしなさいよ」
「うるせェ、お前にとやかく言われたくねェ」
「はいはい…じゃあ、またね実弥」

そしてなまえは手を振りながら人混みの中へと消えて行った。その後姿を見送りながら不死川はまたなまえに会えますようにと、ぼんやりと考えるのであった。



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