「胡蝶様、どうしたらいいでしょうか…」
鬼殺隊士のなまえは悩んでいた。
「そうですねぇ。あ、そうだ。いっそのこと冨岡さんの言う通りにしてみると言うのはどうです?」 「ちょっと胡蝶様?!冗談言わないでくださいよ!」
なまえは真剣に悩んでいると言うのに話を聞く胡蝶しのぶはなんだか呑気。ニコニコと笑いながらそう言うものだからなまえは慌てて声を上げる。
「冨岡様の言う通りって…そ、その、冨岡様と結婚するって事でしょう!?そんな事出来る訳ないじゃないですか!」
なまえの悩み、それは水柱冨岡義勇に関しての事だ。
事の始まりは一ヶ月程前になるだろうか…。 ある時なまえは任務で冨岡と一緒になった。二人は難無く鬼を退治しその日は遅かった為藤の花の家紋の家で一晩泊まらせてもらう事となる。冨岡となまえは用意してもらった各々の部屋でゆっくりと休む事にしたのだが。
「なまえ、言い忘れていたのだが」
明日この家を出る時間を伝えるのを忘れていた冨岡がなまえの部屋の襖をガラリと開けた。そこで彼の目に飛び込んで来たのは着替えようと隊服やシャツを脱ぎ上半身が露となったなまえの姿だ。固まる冨岡、そして慌てるなまえ。
「あっ!ちょ!ちょっと待ってください冨岡様!」 「…すまない」
なまえは咄嗟に胸元を隠し冨岡は表情がないまま静かに襖を閉め部屋から出て行った。そしてしばらくして「お待たせしました冨岡様」となまえに声を掛けられ部屋に入ったが、入るなり冨岡はなまえに頭を下げて謝罪をする。
「冨岡様!頭をあげてください!」 「いいや俺が悪い事をした。すまない」 「そんな…謝るほどの事ではないので…!」
一瞬驚いたが冨岡だってわざとではないのだからなまえだって怒ってはいない。柱である冨岡が自分なんかに頭を下げるてくるのが恐れ多くてなまえは慌てる。
「いや、何か詫びをさせてくれ」 「お、お詫びなんて要りませんよ!」 「嫁入り前の娘の裸を見てしまったとあっては申し訳が立たない」
なまえも女ながらに鬼殺隊に身を置き鬼と戦う者…日頃の戦いで腹に傷を負ったりすると仲間が応急処置をしてくれる事もあるから女としての恥を捨てた訳ではないが普段服で覆われている身体を見られる事にある程度は慣れている。なまえは気になんてしていないのに冨岡は律儀にそんな事を言ってくるものだからなまえは場を和ませようとしたのか。
「じゃあ責任とって嫁にもらってください〜なんちゃって!」
そんな事を言って笑って見せたのだが、冨岡は。
「分かった」 「え?!」
それを冗談として聞き流すのではなく真面目に受け取ってしまったのだ。それから冨岡はなまえと顔を合わすたびに結納はどうするだとか両親に挨拶をしたいのだとかそんな事を言って来て冗談で言ったなまえはほとほと困ってしまった。
「あの時、じゃあ今度何か美味しい物でも奢ってください〜とか言っとけばこんな事にはならなかったのに…私の馬鹿…」 「まぁなまえさんだって冨岡さんがそんな冗談を真に受けるなんて思ってもいなかったでしょうから…」
これが冨岡ではなく他の相手であればその場で話は終わっていた事だろう。だが真面目と言うか天然と言うかあれは冗談ですと何度伝えても冨岡は年頃の娘の裸を見てしまった責任を取ろうとしていて、冨岡の事が嫌いと言う訳ではないが誰かと、ましてや柱との結婚なんて考えもしなかったなまえはこうしてしのぶに相談する程困っていた。
「でも私は冨岡さんとなまえさん、中々お似合いだと思いますけどね」 「胡蝶様何言ってるんですか!」
突然そんな事を言い出すしのぶになまえは声を荒げるがしのぶは楽しそうに笑っている。
「ところでなまえさん。話は変わるのですが最近一番欲しい物って何ですか?」 「えっ欲しい物…?んーそうだな…あ、手鏡。使っていた物にひびが入ってしまったので新しい物を買おうと思っているのですが中々好みの物が見つからなくて」 「なるほど。ではなまえさんの好物って何でしたっけ?」 「好物はおしるこです」 「そうですか、分かりました」 「分かりましたって…何かあるんですか?」 「別に何もないですよ?」 「…怪しいのですが」 「怪しいだなんてとんでもない!」
しのぶはそう言うが怪しくて怪しくてたまらない。しのぶの穏やかな微笑みも今は悪巧みをしているようにしか見えなくてなまえはジトリとしのぶを見つめたのだった。
以下没文章です。
▲後日談的なの。 「なまえ」 「と、冨岡様…!なにか御用でしょうか」 「今度一緒に甘い物でも食べに行こう」 「甘い物ですか…」 「嫌いか?」 「い、いいえ嫌いじゃありませんよ」 「ぜんざいが美味いと評判の店を見つけたんだ、一緒に行こう」
▲蝶屋敷に冨岡さんが来た場合。 その時失礼します、と蝶屋敷で働くアオイが声を掛けてきた。 「しのぶ様、冨岡様がお見えになってますが」 「あら噂をすれば…」 「と、冨岡さんが?!」 突然の冨岡の来訪に驚くなまえ。だがしのぶはどこか楽しそうに目をキラキラと輝かせた。そして平然と案内するようにとアオイに言う。 「こんにちは冨岡さん。今日はどうしたのです?」 「胡蝶に相談があってな」 「相談?まぁ何かしら」 「みょうじなまえと言う隊士を知っているか?」 「なまえさんですか?勿論知っていますよ」 「彼女が好きな物を知っているだろうか」 「そうですねぇ…あ、そう言えばなまえさん、手鏡が欲しいと言ってましたよ。あと確かおしるこがお好きですよ」
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