※貞操感無い夢主です。
「あっ」 「あっ」 「あっ」
なんとも間の抜けた声が三つ揃った。
「す、すまん!!!」 「れ、煉獄様っ!!!」
その次に同時に声を上げたのは鬼殺隊炎柱の煉獄杏寿郎と若い男の隊士だ。煉獄は慌てて開いた襖を勢い良く閉めて隊士も素早く上半身を起す。よりにもよって、とんでもない場面に、遭遇してしまった煉獄は部屋の主の返事も待たずに部屋に入ってしまった事を後悔した。
…それが数十分前の出来事だ。あれから無言で自分の部屋に戻り何と言われるだろうかと一人悶々としていた煉獄の元を訪ねたのは炎の呼吸を使う煉獄の後輩隊士のなまえだ。揃った三つの声の主は煉獄と男の隊士、そしてもう一人がなまえである。
「なまえ、本当にすまない。その、部屋に勝手に入ってしまって」 「いいえ煉獄さん、そんなに気にしないでください。たいした事ではないので」
土下座する勢いで頭を下げてくる煉獄だがなまえは本当に気にしていない様子で呑気に笑っている。
「何を言う!あ、あれがたいした事ではない、訳が、ないだろう!」
だが煉獄は言葉の通り先程見てしまったものはたいした事ではない訳が無いと思った。何故なら煉獄が見てしまったのは男の隊士となまえの情交だったからだ。
「あぁでもそれはこちらも配慮が無かったと言うか…その、ごめんなさい」
今日は、煉獄となまえともう一人の隊士とで任務に来ていて無事鬼を退治し帰りは藤の花の家紋の家で一晩泊まらせてもらう事となった。食事や風呂やらの世話をしてもらい夜も更け三人は其々用意してもらった部屋で休んでいたのだが、煉獄はなまえに話があるのを思い出しまだ寝てはいないだろうと思って彼女の部屋を訪れて「なまえいるか、話がある」と返事を待たずに襖を開けてしまった。そこで見てしまったのが布団の上で裸で抱き合う隊士となまえだ。
「…だが、知らなかった」 「なにをです?」 「なまえと芳野の、関係だ」 「私と芳野?」 「二人は恋仲なのだろう?」
煉獄がそう思うのは仕方がない。だって恋仲でなければ男女の交じわいなどするはずがないだろう。煉獄は二人の関係を知り少し寂しくなった、だがなまえは。
「え?違いますよ」 「違うだと?し、しかし先程…」 「あぁ、あれ寝酒を頂いてたら芳野が部屋に来て、ついでに一緒に飲むうちになんだか盛り上がっちゃってそのまま…」
あっさりと、はっきりと、そんな事を言って煉獄を驚かせる。
「…恋仲でもないのに、あんな事が出来るのか」 「まぁ、そうですね」
なまえが聞かせてくれた話によると身体を重ねるのは芳野だけではない。他にも特に拒む理由がなければ「そういう雰囲気」になるとなまえは相手を受け入れ一晩を共にすると言う。煉獄は後輩であるなまえの事を良く知っていたつもりだったが自分が知らなかったなまえの一面を見てしまい嫌な感情がぐるぐると渦巻いてしまった。
「煉獄さん大丈夫ですか?なんだか顔色が良くないような」 「…いや、すまない。ただ、その、なまえの考えが理解出来なくてだな…」
逆に煉獄はいつもハキハキと物を言うのに今回は口篭ってなまえと上手く会話が出来ない。嫌な感情と言うのはなまえに対しての嫌悪感ではない、これは、嫉妬だ。
「煉獄さんは恋人でもない相手と寝るのが考えられませんか?でも逆に言えば特定の相手が居ないのだから誰と寝ようが別に良いじゃないですか」 「確かにそうだが…」
しかし俺が良い気がしないんだ。 煉獄の言葉になまえはえっ?と顔を上げる。
「俺はなまえが他の男に抱かれる事に、良い気はしないな」 「何故です?私は煉獄さんの恋人ではありませんよ?それとも貞操感の無い後輩を持つ事が嫌なのですか?」 「違う、そうじゃない」
出来ればもっと場所や雰囲気を考えて想いを告げたかった。だがそんな話となりもう言ってしまおうと思い煉獄は真っ直ぐになまえの目を見つめた。
「俺はなまえを好いている」 「えっ?!」 「勿論それは女としてだ。後輩として、仲間としても俺はなまえを好いている。だがそれ以上になまえの事を愛しいと思っていたんだ」
煉獄の突然の告白になまえはただただ驚く。だが煉獄としてはなまえへの想いはもう随分と前からのものだった。日々共に鍛錬や任務をこなすうちになまえに惹かれていった。だからなまえが恋人でもない他の男に抱かれるのを見てしまい煉獄はそれはそれは衝撃を受けたのだ。
「なまえ、好きだ」 「れ、煉獄さん」 「俺と恋仲になってくれ」
まさか、あの煉獄杏寿郎が自分の事を好きだなんて。煉獄は嘘や冗談でそんな事を言ってくる男ではないと言う事ぐらいなまえは分かりきっている。
「なまえは俺の事が嫌いか?」 「嫌いだなんてとんでもない」
嫌いではない、むしろなまえは煉獄の事が好きだ。困った時はすぐに助けてくれるし同じ呼吸を使う隊士として憧れの存在だ。
「ならば少し考えてみてはくれないだろうか。今すぐに返事をとは言わないから」
だからこれからも尊敬している頼れる先輩として想いたかったのに、二人の関係を変えるような出来事が起きてしまい、ただただなまえは困ってしまったのだった。
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