「よオよオ久しいなお前ら!随分と元気そうじゃないか!」
「宇髄さん!!」

その日炭治郎と善逸と伊之助が偶然再会した人物は元音柱の宇髄天元。宇髄は遊郭での上弦の鬼との戦いにより左目と左腕を失い柱を引退したもののその逞しさは変わらずであった。炭治郎らを見つけると笑顔でブンブンと手を振ってくれて炭治郎らは宇髄の前に駆け寄った。そしてフと視線を宇髄の背後にやるとそこには見た事のない美しい女性が宇髄に隠れるように静かに立っていて女性の気配にいち早く気付いた善逸は「美人さん!!」とさっそくニコニコと顔が緩んでいる、だが。

「あの、宇髄さん。そちらの女性はどなたですか?」
「ん?あぁなまえか!そうか、お前らとは初対面だったな。紹介してやる、こいつの名前はなまえ。俺の嫁だ」

俺の嫁。炭治郎が訪ね宇髄がそう答えた途端善逸の笑顔はピキッと固まり数秒の間動かずにいたが言葉の意味を理解するとカッと目を見開いて宇髄を指差した。

「はぁああああ!?何て言った?!嫁?!俺の嫁って言ったの?!アンタ三人も嫁さん居ただろ?!と言う事はなに?!四人目の嫁?!ねぇなにそれ!いい加減にしろよ!?ざっけんな!!!」
「うるせえ!」
「おごっ」

そしてそう一気に捲くし立てたが宇髄から腹に一発拳を喰らうシンと静かになる。あわわと慌てる炭治郎、そして宇髄の四番目の嫁であるなまえ。

「て、天元…何もそこまでしなくても」
「いいんだよこいつは!放っておけ放っておけ!」

善逸を心配してなまえが宇髄の背後から出てきた。そして倒れる善逸を起そうとなまえが片方膝を付いてフワリとしゃがみ込む。同時に炭治郎も膝をついたからすぐ目の前になまえの顔があった。改めて近くで見ると、なまえはなんと美しい事か。サラリと揺れる黒髪にぱっちりとしたまあるい目、艶やかな唇に爪の先まで美しくまるで人形のよう。なまえは炭治郎を目が合うとニッコリと微笑んで炭治郎は思わず頬を赤く染める。

「あ…改めまして、私、宇髄なまえです」
「お、俺は竈門炭治郎です!倒れてるのが我妻善逸で、隣の猪の毛皮を被っているのが」
「嘴平伊之助だ」
「まぁあなた達が炭治郎君に善逸君に伊之助君なのね!天元から話は聞いているわ、あなた達には一度会いたかったの!会えて嬉しい!」

はじめ目が会った時、なるべく気配を消して人と関わらないようにしているのかなまえからは薄く微かなツンとした冷たい匂いがしてきた。だが炭治郎らが名を名乗ると警戒心は一気になくなりパッと明るい笑顔でそれはそれは嬉しそうに両手を合わせる。

「うう、俺を差し置いてずるいぞ炭治郎…」
「あっごめん善逸!大丈夫か?!」
「善逸君、天元がごめんね…」

ムクリと顔を上げた善逸に慌てて声をかける炭治郎。だが「痛かった?」となまえが首を傾げて心配そうにそう言えば善逸は何事もなかったかのようにスクッと立ち上がりパンパンと羽織についた埃を払いニコリと笑った。

「大丈夫です。心配ありがとうございますなまえさん、これぐらいなんてことありませんから」
「それなら良かった!」
「あのなまえさん、なまえさんは本当にその人のお嫁さんなんですか?」
「ええそうよ」
「どうしてなまえさんみたいな美人で優しい人がこんな人の嫁になんかなったんですか?なまえさんなら他にも選び放題でしょ」
「誰がこんな人だ、こら…」

そしてそれから、善逸があまりにもしつこくなまえの事を教えろと宇髄に詰め寄ったので宇髄はなまえの事を話してくれた。

宇髄の言う通り、なまえは宇髄の四人目の嫁である。だが出会いはつい最近などではなく宇髄が忍だった頃に遡る。宇髄と同じくなまえの家も代々続く忍の家系でなまえも優秀なくの一であった。くの一と言ってもなまえの忍としての実力は男に勝るほどで時代が違えば歴史に名を残す忍のような活躍も出来ただろうと言われる程であった。だがなまえも宇髄のように忍としての生き方に疑問を持っていて成長するにつれてに街で見かける町娘のように自分もごく普通の女になりたいと思うようになったのだ。そして宇髄が須磨、まきを、雛鶴を連れて抜け忍となった際になまえも忍を辞めた。それからは宇髄らと別れて一般人となり平穏な日々を過ごす事を望んだのだが…。

「なまえは数週間前に夫から離縁されてなぁ」
「離縁?!こんなに美人で!優しい!なまえさんと離縁だって?!どこに居るんだそんな馬鹿な男が!!!」
「お、落ち着いて善逸」
「これが落ち着いてられるか炭治郎!」

忍を抜けた宇髄は鬼殺隊となったがなまえはどこにでも居るごく普通の町娘となって出会った男と結婚した。だがはじめこそ良かったものの月日が経つうちに夫やその姑と仲が上手く行かず、結局離縁され家から追い出されてしまった。そんななまえの事をどこから聞きつけたのか迎えに行ったのが宇髄本人だ。

「まぁはじめからなまえに結婚なんて向いてなかったんだよ。今は少しばかり淑やかになったが昔はそりゃもうド派手にお転婆だったからな」
「ひどい!やってみなきゃ分からないって言ったのは天元なのに!それに須磨達はなまえなら良いお嫁さんになれるって言ってくれたわよ!」
「なら相手選びをド派手に失敗したな!そもそもあの地味な男がなまえにつりあう訳がねえ」

宇髄となまえは一族同士の繋がりがあったから幼い頃からの知り合い…いわゆる幼馴染と言うやつらしい。だからだろうか、宇髄と以前出会った彼の三人の妻達とはまた違う仲の良さがある。

「ま、これで分かっただろうが。やっぱりなまえの相手が出来るのは俺ぐらいって事よ」
「別に天元に貰っていただかなくても何とかなったんですからね!」
「おーおーよく言うわ。可愛くねぇ女だな」
「可愛くない女で結構です」

そんな憎まれ口を言いつつも二人からはほわほわとした温かな匂いしか炭治郎はしなかった。善逸だって穏やかな音が聞こえてきて、悔しい事だが二人はなんて仲の良い夫婦なのだろうとそう思った、が。

「夜はあんなに可愛いくせにな…」
「な!!!なんて事言うのよ炭治郎君たちの前で!!!」

そんな事をポツリと言った宇髄と顔を真っ赤にさせながら「天元の馬鹿!!!」と大声を上げるなまえ。炭治郎は意味が分かっていないのか二人をニコニコと見ていて伊之助も興味無さげにしている。善逸だけが。

「…アンタいい加減にしろよ!!!別れろ、すぐになまえさんと別れろ!!なまえさんと一緒に居る資格なんてアンタには無い!!!」
「なんて事言いやがるんだテメェは!!俺となまえの仲も知らずに勝手な事言うんじゃねえ!こう見えて俺達は毎晩…」
「やめろ天元!!!後輩達の前!!!」

もう我慢ならんとばかりに今日一番の大声を上げて、それに宇髄となまえが続いた。
それは炭治郎達が美人だが話すととても愛嬌のある宇髄の四番目の嫁なまえと初めて出会った日の出来事であった。



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