※約束の花嫁のその後のお話。
※夢主は出てきません。
※夢主の親友目線です。





私が鬼殺隊に入ったきっかけ?

それは「親友」よ。

私は親友を救い出す為に、鬼を殺す術が欲しかったの。

それで私は鬼殺隊に入ったのよ。

私の親友は、明るくて可愛らしい子だった。優しいお祖父さんとお祖母さんに育てられたとても良い子でね、小さい頃は村の意地悪な子供達に親無しの子だと言われていた事もあったわ。だけどその子はとても素直に愛らしく育って、私はその子の事が大好きだった。親に言われ半ば強制に習わされていた琴も、その子が居てくれたからいつだって楽しく通う事が出来たわ。私の両親もその子の事が大好きで、その子の十五歳の誕生日に父が兎の柄の入った櫛を贈ったの。その子はとても喜んでくれたし私もとっても嬉しかった。だって私も同じ物を貰ったの。大好きな親友とお揃いの櫛…いつまでも大事にしていこうと私は思ったし、その子も大切にするねと言ってくれた。

笑顔のその子を見て、私はいつまでもその子と親友で居たいと思った。お互い結婚してしまえば離れ離れになると思うけど、けれど私の親友はその子が良いと、私はいつだって思っていたのよ。

だけど、だけどね。

そんなあの子は、ある日突然居なくなった。

失踪?いいえ違う。

鬼に、攫われてしまったの。

大好きだったのに、あの子の事、大好きだったのに。誕生日を祝ったばかりの次の日、その子の家の方が騒がしくて私は胸騒ぎを覚えながら足早に向ったの。そこには鬼狩りと呼ばれる黒い隊服を着た人達が数人と、憔悴しきったその子のお祖父さんとお祖母さんが居たわ。二人共怪我をしていて、何があったのかと駆け寄ったら二人は事情を話してくれた。

あの子は、私の大好きな親友は、鬼に連れ去られたって、その鬼と結婚する為に、どこかに連れ去られたって、そう言われたの。

はじめは理解が出来ず頭の中が真っ白になってしまった。人間のあの子を妻とする為に鬼が攫ったの?なあに、何故鬼のくせにそんな事をするの、何故あの子じゃなきゃ、私の親友じゃなきゃ駄目だったの?あの子には…これから特別な関係になるであろう素敵な男性だって居たのに、どうして鬼がその幸せを奪うの?

許さない許さない。

私は鬼を絶対に許さない。

冷静になった私の中に浮かぶ感情はただそれだけだった。

あの子を攫った鬼を見つけ出し殺す、そして親友を救い出す。

それがその日からの、私の生きる目標になったわ。

だから私は鬼殺隊に入った。
勿論両親は反対した、私の家はあの子の家のように藤の花の家紋の家ではないし鬼狩りではない、だが父は鬼殺隊の事を知っていたから私が鬼殺隊に入ると言ったら血相を変えて大反対だった。だけど、あの子を助けたいのだと言ったら、両親は止めるのを諦めてくれた。そして私は育手を紹介してもらい厳しい修行を乗り越えて最終選別にも合格した。

そして鬼殺隊士となった私は、炎柱となったあの男性と、再会したの。

「煉獄さん」
「君は…!」

その男性は鬼殺隊炎柱の煉獄杏寿郎さん。

「お久しぶりです煉獄さん、私の事を覚えていますか?あの秋祭りの夜に会った事のあるなまえです」
「…勿論、覚えているとも」

そしてあの日の秋祭りの夜あの子と一緒に居た男性…私の親友と恋人になりたいと思っていると言った、あの人だ。私の顔を見た煉獄さんはそれはそれは驚いていた。何故ごく普通の村娘の君が鬼殺隊の隊服を着てここに居るのだ、そう言いたげだ。

「覚えてくれてたんですね、良かった。これから後輩隊士としてお世話になります、御指導よろしくお願いします」
「なんだと?き、君は鬼殺隊士なのか」
「ええそうです、鬼を退治する為に鬼殺隊に入りました」

そう話すと煉獄さんは私が予想していた通りの事を言った。

「何故君のようなか弱い乙女が鬼殺隊に…!鬼殺隊に居ると言う事はどんなに危険な事か。今からでも遅くはない、早く家に帰るんだ。刀を置いて、故郷に帰って、良い人を見つけなさい」
「嫌です。私は帰りませんし、鬼殺隊も辞めません」

怒っているのか煉獄さんは目を細め私を見るがそれがたとえ柱からの命令であったとしても聞けない事だ。ハッキリと私がそう言えば次に煉獄さんは、

「親友の君が傷つく事など、あの子は望んではいない」

そんな事を、言った。あの子、と言葉に出した煉獄さんの表情がどれ程辛そうで悔しそうだった事か。

鬼に連れ去られ生きているはずがない、とっくに喰われてしまっているはずさ、死んだ娘を探すのなんて時間の無駄だよ、早く忘れた方が君の為でもあるよ。

私はこれまで事情を知る他人にそんな事を言われ続けてきた。私の為を思っているのか、だけど心無い言葉ばかり。死体も見ていないのにどうして死んだと決め付けるの?忘れた方が私の為?何を言うの、忘れるなんて出来る訳がないじゃない。みんな何も知らないくせに、そんな事を軽々しく言って…。

だけどこの煉獄さんは違った。この人の目を見れば分かる…この人も…あの子の事を忘れてはいないんだ、あの子の事を諦めてはいないんだ、あの子の事を救い出そうと想い続けているんだ。

「煉獄さん」

でもね煉獄さん。

「あの子を救いたいと思うのは、貴方だけではないんですよ」

あの子を救いたいと思う気持ちは私も一緒なんです。

「私が鬼殺隊を離れる時はあの子を見つけた時です」

私の言葉に煉獄さんは何も言わなかった、何も言わずにただウンと頷いた。きっと、煉獄さんは私の想いを理解してくれたのだろう。そう、私が鬼殺隊を離れるとしたらあの子を見つけた時。そうしたらあの子と貴方が一緒になるのを見取って、私は故郷に帰ります。

「煉獄さん。早くあの子を見つけてあげましょうね」

そう、私は、お守り代わりにしているあの子と揃いの櫛をギュウと握り締め誓うのだ。



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