「環を初めて見た時に思ったんだ、この子はそこらの娘とは違うってね」

教祖の部屋に二人きりの童磨と環。

「そんな特別だなんて…私はただのそこらに居る普通の女です」
「ううん違うよ、雰囲気で分かるんだ。ここに居る信者達とは比べ物にならないぐらい君は綺麗だよ」
「教祖様…なんて有難い御言葉なのでしょう」

教祖の前に座らされた環はそう言って頭を下げた。その状態でチラリと視線を動かし部屋を見渡す。今のところ、教祖の部屋だからと言って何か特別なものがある訳ではないようだ。

「ああ頭なんて下げないで、顔を上げて。環の可愛い顔を見せておくれ」

そう言われ環が顔を上げるとジッと見てくる童磨と目が合った。それはなんとも不思議な虹色をした綺麗な瞳だった…その瞳で見つめられるとゾクリと背筋が凍るようで信者の女達は教祖様の目はとても美しいと讃えていたが環は不気味と思えてしまう。

「ねぇ、環」

するとニコリと笑いながら童磨が立ち上がった。

「君がここに来た目的は何?」

その言葉にピクリと身体を強張らせる環。

「何があってここに来たんだい、君みたいに綺麗な子でも不幸な目に遭ったのかい?そうだったらどんな目に遭ったのか話を聞きたいな」

まさかこの男は自分がただの信者ではないという事を分かっているのだろうか…そんな事を言いながら静かに環に近づいた。すぐ前に来ると胡坐をかいて座り込み手を伸ばせば環の頬にソッと触れて環は少し身構える。

「ねぇ、俺に環の全てを教えて?」

童磨の手が環の頬から首、肩、腕へと落ちる。その手はまるで血が通っていないかのようにとてもとても冷たくて環の背筋がゾワリとなった。だが童磨は構わずに環に触れてくる。童磨の手は環の腕をしばらく撫でていたが次に寝巻きの衿にかかった。衿を乱され白い肌が露になろうとしたところで環はハッとする。

「やめてくだ、」

そして童磨の手を掴み動きを止めようとしたが。

「っ…!」

その時急にドクリと胸が痛んだ。環は童磨から手を離し胸元を押さえて前屈みになる。そんな環を見て童磨は焦る様に目を丸くした。

「環?どうしたの、大丈夫?!」
「…す、すみません、教祖様」
「しっかりして、ほらこっちにおいで」

苦しそうに肩で息をする環を心配し童磨は優しく抱いて自分の腕の中で環を横にしてくれた。こんな時に呪いの痛みが来るなんて、環は痛みを必死に絶えながら呼吸を整える。

「顔色がとても悪い…医者を呼ぼう」
「いいえ、医者は呼ばないで…呼んでも意味が無いから」

こんな時に…目的の為の手がかりが見つかりそうな気がしていた大事な時にこんな事になるなんて。せっかく組織の頭である童磨と二人きりになれたのにまともに話も出来ぬまま終わってしまうのか。…いや、このままでは終われない。せっかくここまで来たのだ、環に残された時間も少ない、このままでは、終われない。

「教祖様…」
「ん?」
「私の話を…聞いてくださいますか」
「勿論だとも…!苦しいだろうけどゆっくりでいいから、俺に全てを話してごらん」

だから環は一か八かの賭けに出た。

「…教祖様は鬼と言う存在を信じますか」
「鬼?」
「はい、人を喰らうとても怖ろしい存在です…」

敢えて自ら鬼の話をして教祖の反応を伺った。若い娘が消えるという山奥の寺院…直接鬼と関係があるのだろうか、無くてももしかしたらどこかで鬼と繋がっているかもしれない。何か襤褸が出ないだろうかと環は静かに話し出す。鬼、と聞いて童磨は首を傾げたが環はそのまま話を続ける。

「私は鬼に襲われた事があるのです…」

それから環は自分の身の上話を童磨に聞かせた。
鬼は自分の家族を殺した。家族だけではない、鬼に殺された友人もいる。自分はなんとか生き残る事が出来たが怪しげな術をかけられた。胸が痛むたびに寿命が縮んでいっているのが分かる…鬼からの呪いによりあとわずかしか生きれない身体になってしまったのだ。

「鬼が居るだなんて頭がおかしいと、呪いだと言う痛みも流行り病なのだろうと村を追い出されました。それからどこへ行っても気味悪がられて私の居場所はありませんでした…そんな時この寺院の噂を聞いたのです。だから私は…」

そこまで環が話すと童磨は環をギュウと抱き締めた。

「もういいよ、大丈夫。ごめんね、悲しい事を思い出させて…」

環の話は半分は本当で、半分は嘘だ。
鬼に家族や友人…両親に双子の姉妹、鬼殺隊の仲間達を殺されたのは事実であり鬼から呪いを受けたと言うのも事実である。双子の姉妹のカナエを殺されてから環は鬼を殺す事に励み日々の任務を全うしていた。そんな時に出会ったのが環に呪いをかけた鬼だった。最終的にその鬼の頚を斬り殺す事が出来たが戦いの最中鬼の血鬼術を受けてしまった。その術がその場だけではなく徐々に徐々に命を蝕んでいく厄介なものだったとは…。呪いによる胸の痛みは年々と強くなっていき自分の命がもう長くは無いと言う事は分かっている…だから命尽きる前にどうしてもカナエの仇は自分がとると決意し柱になる事を辞退し蝶屋敷もしのぶに任せ環はカナエを殺した鬼を探す事だけに専念した。環の呪いの事を知るのは産屋敷耀哉だけであり、耀哉はそんな環の気持ちを汲んで環の自由な行動を許していたのだ。

「話してくれてありがとう環」
「教祖様は、私の話を信じてくれるのですか…?」
「うん、信じるよ。俺は環の言う事を信じるよ」

童磨は環の話を信じたようだった。呪いにより村を追い出された…と言うのは勿論作り話だが童磨の同情を惹くのには十分だったようである。

「環ごめんね、環は本当に辛い目にあった子だったんだね、疑ってしまってごめんね…」

童磨は環の頭を優しく撫でる。

「こんなに美しくどこか凛としている環が誰かに救いを求める訳がないと思っていたんだ。だからもしかしたら極楽教を快く思っていない人間達の差し金で環は来たんじゃないかと、信者の家族に頼まれてここまで来たんじゃないかと、そんな事を思っていたんだ」

はじめに童磨が言った「君がここに来た目的は何」という質問はこういう思いがあったようだ。鬼殺隊士とばれた訳ではないので環はとりあえず安心する。

「環、もう大丈夫だからね。これからは俺が付いているよ、環の事を悪く言う人間はいないからこれからは安心して暮らすといいよ」
「教祖様…」

それからその夜は童磨と話をして時を過ごした。教祖に選ばれた特別な子は極楽に連れて行ってもらい二度と他の信者達の前には現れないと聞いていたが、環は無事に朝を迎える事が出来て昨晩自分を囲っていた女達とも再会し彼女達を驚かせた。

「環、廊下の掃除が終わったら教祖様の元に向かいなさい」
「はい分かりました」

そしてあの夜の出来事から童磨と環の関係は変わっていった。童磨は環の事が気に入ったのか、教祖とただの信者だった関係が少しずつ距離が縮まり二人で他愛も無い話をして共に過ごす時間が増えていった。

「またあの子だわ…」
「なによ、極楽に連れて行ってもらえなかったくせに」
「どうしてあの子ばかり教祖様に呼ばれるの…」

その事が気に喰わない信者からは影でコソコソと悪口を言われるようになってしまったが環にとってはどうでもいい事…あと少しだけこの寺院の事を調べようと決め陰口なんて聞こえないフリをして童磨の元へと向かうのだった。


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