「久し振りだね環、会えてとても嬉しいよ」
「こちらこそお舘様。お舘様のお声が聞けて私は嬉しゅうございます」

その日環は鬼殺隊の本部産屋敷一族の舘に来ていた。環は日々全国を周って鬼の事を調べているが時々こうして旅の途中に得た情報を報告をする為に産屋敷一族97代目当主産屋敷耀哉の元を訪れる事になっている。

「またすぐに発ってしまうのかい?」
「はい、時間が惜しいので」
「…そうかい」

環の時間が惜しい、と言う言葉に耀哉は辛そうに目を細めそれを見て環はニコリと明るく笑う。

「お舘様そんな顔をなさらないで。私は大丈夫、自分で決めた事なのですから」
「環はとても強い子だね…」
「いいえ…本当に強いのは私じゃなくて妹です…妹はとても頑張っています、だから私も残された時間でやれる事をやるだけです」

カナエが死んだ時、彼女の跡を継ぐのは環だと誰もが思っていた。しかしいざ柱を決めると言う時に環は自分は柱になる実力はないし蝶屋敷の主にもなれないと言って柱になるのを拒否してしまった。そして蝶屋敷なら自分よりも妹こそが主に相応しく彼女にならば任せられると推して十四歳にして胡蝶しのぶは蝶屋敷の主人になったのだ。

「妹は十四歳と言う若さで蝶屋敷の主人となってからとても頑張ってくれています…辛い事だって沢山あるでしょう、けれど決して涙を見せず妹達の前では気丈に振舞ってくれています。妹が作る毒だってとても強力な物で頚を切らねば死なない鬼を殺す事が出来ます」

鬼殺隊を辞めて欲しいと思う環の気持ちとは反対にしのぶは鬼殺隊になくてはならない存在だ。小柄な体躯の為に鬼の頚を落とす事は出来ないがしのぶは鬼をも殺せる強力な毒を開発した。医学や薬学にも長けて傷を負った隊士達を治療するのもしのぶである。

「ああそうだね。しのぶの事は十分に分かっているよ。けれど環の事だって分かっているよ、環だって辛い事はあるはずだ。でも環はとても頑張っているよ」

しのぶに蝶屋敷を任せてからと言うもの環が屋敷に戻ることが少なくなった。だが環だって遊び回っている訳ではない。環には残された時間が少ないから柱にも蝶屋敷の主にもならず自分の目的の為に全国を周っていて、環の事を分かっているから耀哉も承知し環の自由な行動を許していた。

「ありがとうございますお舘様」

環は頭を下げるとスッと立ち上がる。

「そろそろ行きます」
「そうか…また会える事を願っているよ」
「お舘様こそ健やかに」

そしてもう一度頭を下げるとクルリと踵を返し耀哉に背を向け歩き出す。

「環」

そんな環に、耀哉は最後に言葉を掛けた。

「死んでは駄目だよ」
「分かっています、お舘様」

それ以上言葉には出さなかったが耀哉は環の顔に死相が見えた気がした。だがそんな事を伝えたところで環の意志が変わらない事を彼は知っている。だから耀哉は環の無事を祈るだけで彼女の歩みを止める事なくその背中を見送ったのだった。


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