童磨は幸せだった。
何故なら人間だった頃からの知り合いである幼馴染の月子に再会出来て、月子が言った「これからは一緒に居られる」の言葉の通りまた一緒に過ごせる事になったからだ。

「童磨見て見て」
「わぁ可愛い冠だね!」
「信者の子がくれたの、素敵でしょう?」

寺院に住み着いた月子は鬼だから童磨と同様昼間は建物の外に出る事は出来ないがそれでもとても楽しそうに毎日の日々を過ごしていた。童磨を教祖様と慕う万世極楽教の信者達にとって髪や瞳の色が他と違う月子もとても神々しく見えたから気味が悪いなどと悪口を言う者もいない。逆に月子様とか姫様だとか呼んで特に幼い少女達は月子に良く懐き今日だって外に出れない姫様の為にと素朴だが可愛らしい野花の冠を作り月子に持ってきてくれた。

「とっても良く似合っているよ、月子は子供達と仲が良いんだね」
「そうなの。この前は一緒にままごとをしたのよ、綾取りも教えてもらったしお手玉だってしたわ」
「そうかいそうかい、とても楽しそうだね。じゃあ今度は俺も混ぜてもらおうかな?」
「駄目よ、童磨は駄目!私達は女の子だけで遊んでいるんだから!」
「えー!駄目なのかい?」
「絶対駄目よ」

幼い頃、友達と遊ぶ事が無かった月子にとってまだ十歳にも満たない少女達との遊びはとても楽しいものらしい。大人なら飽き飽きするような遊びも子供のように夢中になって、だからこそ姫様と畏まって呼びつつも少女達と月子はまるで友達のように仲が良いのだ。そんな月子を見て童磨はとても嬉しかった。少女達の遊びに混ざる気なんて更々無いがわざと言ってみれば女子の遊びに男子は入れてあげないと言わんばかりに月子は頬を膨らませた。そんな月子は幼い少女のようで可愛くて童磨は微笑ましそうに笑い月子の頭を撫でてやる。

「分かったよ、女の子達の遊びの邪魔はしないでおくよ。でもたまには俺にも構っておくれよ?俺だって月子と一緒に居たいのだから」
「うん、分かっているわ童磨」

すると月子は童磨に抱きついた。鬼になった影響か、前よりも月子は明るくなったと童磨は思う。いつだって悲しそうな顔をしていて自分の前では笑ってくれたがその笑顔もどこか儚げ…だけど今の月子は心から笑っているかのようでそんな月子を見ると童磨はとても嬉しかったのだ。


そして、夜。


「童磨、早く早く」
「待っておくれ月子」

陽も落ち月が出て出歩けるようになった童磨と月子は二人で寺院の裏山に来ていた。歩きやすいように着物の裾を捲り上げて月子は童磨の手を引っ張るように山道を進んで行く。童磨は優しい声を掛けながら月子に続いた。

「そんなに急いでも逃げやしないよ、それに目当ての物はもうすぐそこさ」
「どうして分かるの?」
「香りが強くなってきてるだろう?」
「そう言えば…、」

歩くのに夢中で月子は気付いてなかったようだが山道を抜け少し開いた丘に辿り着くと濃厚な甘い香りが漂ってきた。童磨に言われ匂いを確かめながらキョロキョロと辺りを見渡す月子。そしてあっと声を上げた。

「童磨見て、きっとあれだわ!女の子達が言っていたのはあの花よ」

月子はタッとあるモノの側に駆け寄った。

「ほら、とても綺麗。それにとても良い香り」
「本当だね、見つかって良かったね月子」

それは月下香と言う名の乳白色の愛らしい花だった。群生と言う程ではないが辺りには月下香がいくつか咲いていてその可憐な姿には似つかわしくない強い香りを放っている。

「子供達に裏山に可愛い花が咲いてるって教えてもらったから一度見てみたかったの。この花は夜にしか匂いを放たないんですって」
「へぇ。まるで月子のような花だね」

昼間、月子は信者の少女達から寺院の裏山に良い匂いを放つ乳白色の花があると聞いた。昔その近くに住んでいた住人が植えた花らしく人が居なくなっても花だけは残っていると。それは夜にしか匂いを放たないから少女達は嗅いだ事がなかったが彼女達が親から聞いた話によるととても甘くて良い匂いだと言う。それを聞いて月子はどうしてもその花が見たくなり童磨を連れ出しこんな所までわざわざやって来たのだった。

「あの子達にも見せてあげたいわ」
「そうだね、でも女の子達はもう眠っているよ。この花は夜にしか咲かないのだろう?」
「うん、そうなの、残念だわ」
「明日起きたら花の事を話して聞かせてやるといいよ」
「うん、そうね」

サワサワと風が吹いて月下香の匂いが一際強く辺りに舞った。月子の象牙色の髪がフワリと揺れて見慣れているはずなのに童磨は思わず見惚れてしまう。この香りには…魅了する効果でもあるのだろうか月子の事が一段と愛しく思えて手を伸ばし月子の美しい髪にサラリと触れる。

「どうしたの童磨」
「…うん、ただ、月子が可愛いと思ったのさ」
「まぁ、嬉しいわ」

そんな童磨に応える様に月子も童磨の方を向いて彼に一歩近づいた。

「月子、俺は今本当に幸せだよ」
「私もよ童磨」
「月子は今の暮らしが楽しい?」
「ええ、とっても楽しいわ」

互いの手を取り握り合う童磨と月子。

「ねぇ月子、ここには誰も月子の事を悪く言う者は居ないよ」
「うん…そうだね」
「ここは月子にとって心地良い場所だろう?」
「うん…とっても」
「じゃあこれからも月子は俺と一緒?」

童磨と月子は以前も「ずっと一緒に居よう」と交し合った。だが月子が村人達から酷い仕打ちを受け鬼となったので童磨の前に現れる訳にはいかずそれは破る事になってしまった。しかし今は違う、何があったかも打ち明けたし月子だけではなく童磨も鬼だ。基本鬼同士は助け合ったり一緒に行動したりと言う事はしないが童磨と月子は鬼になる前の記憶を持っているから同族嫌悪をせずに一緒に過ごす事が出来るだろう。

「うん、そうよ」
「ずっとずっと一緒に居てくれるよね?」

指きりこそしないがそう確かに約束した。今度こそはずっと一緒に居られると童磨も安心した。

「ええ、ずっとずっと童磨と一緒に居るわ」

だが月子はそれから数日後、再び童磨の前から姿を消したのだった。



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