「月子は昔と変わらないね」
「童磨は…最後に会った時より少しだけ大人になったね」

再会を喜び合う童磨と月子はここなら他人に聞かれたり邪魔をされる事も無く二人きりで静かに話しをする事が出来ると言う理由で街の外れにある待合茶屋に来ていた。数百年振りに再会し他愛の無い話をしながらフフフと楽しげに笑う月子だが。

「ねぇ月子、聞きたい事があるんだ」
「なあに」
「月子は、どうして俺の前から突然姿を消したんだい?」

童磨としては気になる事がある。もう既に死んでいると思っていた月子も鬼となっていて無事再会する事が出来た…ならば何故自分の前から姿を消したのか、それは童磨が知りたい事である。

「月子はずっと一緒に居てくれると言ったのに、何の前触れも無く居なくなって俺はとても寂しかったんだよ」
「…ごめんなさい」
「俺だって月子の事を随分と探したんだ、月子が住んでいた村にも行ったんだよ」
「村に行ったの?」
「ああそうさ、村人達に月子親子を知らないかと聞きまわったよ。そうしたら二人は何も言わずに村を出て行ったと言うし」
「あいつら…そんな事を言ったのね」

村人の事を話し出した途端、顔色が変わっていく月子。

「…どうしたんだい月子」
「…」
「もしや村で何かあったのかい?」
「…童磨に、話してあげるわ」

月子の声色が重くなった。そして俯きならばポツリポツリと話し出した。

「童磨が私の事を覚えていると言う事は人間だった頃の記憶があるって事でしょう。私もね人間だった頃の事を覚えているの。だからあの日の事も良く覚えているわ。いっそのこと忘れてしまえれば楽なのに…」
「楽だって?」
「あの頃の私の日課は母と共に童磨が住む寺院に通う事だった。住んでる村から童磨の所までは少し歩かなければならなかったけど、私は小さい頃から童磨に会える事が楽しみで童磨の両親が死んでからそれが毎日になったのがとても嬉しかったのよ。でもあの日、十七歳だった私はそんな小さな楽しみさえも奪われてしまった」
「…月子が居なくなったのは十七の時だったね」
「そう…あれは忘れもしないわ。その日も私と母は童磨の寺院に行く為にお昼頃に家を出ようとしたの。すると家の戸を明けた途端そこに村人達が大勢立っていた…」

目を閉じるとあの時の恐ろしい光景が鮮明に浮かび上がってくる。出てきたぞ、物の怪め、逃がすな、皆で取り囲むんだ。村人達はそんな事を言いながら月子達母子を取り囲む。母は月子を庇うようにギュウと抱き締め震えながら村人達に声を上げた。

「な、なにごとですか!私達に何か用ですか!」
「何か用だと?白々しい!早くその物の怪をこちらに渡せ!」
「物の怪ですって!?月子は、月子は物の怪なんかじゃありません!ごく普通の子です!」
「ごく普通だと?よくもまぁそんな事が言えたものだ!その髪や目の色を見てみろ!以前から言っている通りそいつはただの人間じゃない、村を不幸にする疫病神だ!」

村人達は月子を指差し鬼の形相で睨みつけると声を荒げた。子供の頃から差別を受けていた月子だったがそれは成長してからも相変わらずで何かあればこうやって月子に罵声を浴びせる事が多々あったのだ。

「その頃の村は不幸な事が続いていたの。赤ん坊や老人が原因不明の熱にうなされたり作物が凶作続きだったり、狼が現れて山で作業をしていた男達が襲われる事もあったわ。それらの出来事を、村人達は私のせいだと言ったの」

月子は物の怪で村に呪いをかけている、自分を虐げて来た村に復讐をしているのだ。誰からとも無くそんな事を言い始めそれが村中に広がった。女子供は怖がり月子に近づこうとすらせず男達は月子への憎悪をつのらせていく。そしてその憎悪が遂に殺意へと変わり月子を取り囲んだのだ。

「さぁそいつを渡せ!火炙りにしてやる!」
「やめて!!月子は何もしていないわ!!」
「うるさい!さっさとそいつをこちらへ寄こせ!」
「月子逃げなさい!!!」

それからはもうあっと言う間の出来事だった。娘を逃がそうとする母、余計な事をするな捕まえろと飛び掛る村人達…。

「そして私は殺されたの」

死んで地獄に落ちろ、と誰かが叫んで月子に向って桑が振り下ろされた。その桑が月子の頭に当たり月子は倒れこむ。それから皆狂ったように各々が手にする農作業に使う道具などで月子を殴った。押さえつけられながら月子、月子と叫ぶ母の声が掻き消される程興奮しきった村人達は月子を殴るのに夢中で死ねだのお前のせいだだの叫びながらただひたすら月子を痛めつけた。そろそろ良いだろう、と村の長が声を掛ければようやく落ち着き手を止める村人達。月子を真ん中にして群がっていた村人達は一人一人離れていく…母が悲鳴を上げる…村人達が取り囲んでいたその中央にはピクリとも動かない月子が自らの血の海の中で倒れていた…。

「私は、山に捨てられたわ。死体は獣達が処理してくれると思ったんでしょうね、適当な場所に雑に転がらされていた。でもね、その時、私まだ死んでなかったの。辛うじて息があったのよ」

そう、月子が言うようにその時まだ月子には息があった。だが瀕死の状態である事には変わらずこのまま放っておかれたら死んでしまうのは間違いないし血の匂いをかぎつけて獣達が寄ってくるのも時間の問題だろう。死ぬのは怖い、辛い、悔しい。だがこの苦しみから早く解放されたい。ああ誰か、誰か私を…。

「助けて、もしくは止めをさして。そう思っていた時に、私の前に現れたのが無惨様だったの」

童磨を鬼にしたのが鬼舞辻無惨であるように、瀕死の月子を見つけ彼女を鬼に変えたのも無惨だ。無惨は自らの血を月子に与え月子は生き延びる事が出来た、無惨に助けたと言う気は無くても月子は彼に救われたのだ。

「そうか…そんな事が…あったんだね」

月子が童磨の前から突然姿を消した理由はそれだった。可哀想に、月子は何もしていないと言うのに自分が生まれ育った村の人間達により殺されていた。かろうじて生き延びたものの鬼になってしまったのだから、再び童磨の前に現れる訳にはいかなかったのだ。

「月子、辛かったんだね」
「…でも、童磨に会えたからもう平気」

そう言って微笑む月子がとても健気に見えて、童磨はたまらず月子に近寄ると月子にソッと抱きついた。

「本当に、また会えて良かった…」
「ふふ、くすぐったいよ童磨」
「あっ、ごめん」

童磨の髪が月子の頬に当たったのかくすぐったいと月子は笑う。

「でも月子を離したくない…」
「これからは一緒に居られるよ」
「…あぁ、そうだね…」
「だから、ね?そろそろ出ましょう」
「うん…」

そう言いつつも中々月子を話す事が出来なくて、童磨と月子は抱き合ったままもうしばらく静かな時を堪能するのだった。



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