長閑な午後の事


その日はとても長閑な天気で唐棣は境内の掃除をしていた。落ちた葉をのんびりと箒で掃きながらこれが終わったら村の人に貰った豆大福でおやつにしようとそんな事を考えていたら。

「わぁすごいすごい!氷のイヌだぁ!」
「ねぇ童磨さま!次はウサギを作って!」
「いいともいいとも」

住居の方から楽しげな子供達の声が響いて来た。

「ほら!兎だよ」
「わぁ可愛いー!」

村の子供達が神社に遊びに来るのはよくある事…だがいつもと違い子供らに混じり童磨の声まで聞こえてくる。子供らと共に何をしているのか、唐棣が急いで声のする縁の方に向えば。

「ねぇ童磨さま!もっと他にもたくさん作って!」
「いいよ。次は何にしようか」

縁に腰掛ける村の子供二人、そして日の当たらない部屋の方に童磨が座っていて童磨は手にしている対の扇で氷の動物を作り出し子供らを喜ばせていた。

「童磨!」
「やぁ唐棣!掃除は終わったのかい?」
「あっ!唐棣ちゃ〜ん」

子供達に何かしてはいないだろうかと不安な唐棣を余所に子供らも童磨もニコニコと笑っていて子供らは笑顔で唐棣の元に駆け寄ってくる。

「ねぇ唐棣ちゃん!童磨さまってすごいね!氷の術で可愛い動物をたくさん作ってくれたんだよ!」
「こ、氷の術?」
「あぁ俺の血鬼術の事だよ」
「血鬼術って…。というかいつの間に仲良くなったの?!」
「ついさっきだよ!」

そして童磨も子供達も当たり前のようにそう言ってきて驚くのは唐棣のみだ。童磨と子供ら、実は今日が初対面である。つい数十分前、子供らは天気が良いから唐棣に遊んでもらおうと神社にやって来てたまたま座敷に居た童磨と出会った。

「あ、あなたはだあれ?」
「ん?やぁやぁ村の子供達かい?初めまして、俺は童磨と言うんだ!」
「童磨…?」
「うん!今唐棣の世話になっていてねぇ」
「唐棣ちゃんのお友達?」
「うーん、友達とは少し違うような…。あ、でも怖がらないで!俺は唐棣ちゃんの味方だから!この村の人達に手を出すつもりはないからね!」

はじめは見慣れない男に驚いた子供達…だが唐棣の味方と言われ安心したのか「良い物を見せてあげよう」と言って童磨が血鬼術で適当な氷の像を作って見せれば子供達は目を輝かせて童磨に近づいてきた。そして唐棣が気づいて縁にやって来た頃にはすっかり童磨に懐いていて三人で楽しげに遊んでいたのだった。

「あなたたち、童磨の事が怖くないの?」
「どうして?童磨さまは唐棣ちゃんの味方なんでしょう?なら怖くなんかないよ!」

まだ幼いがさすがこの村の子供と言うだけあってか血鬼術と言う人間では出来ない技をしてみせた童磨を見ても子供達は怯える様子なんか微塵も無くて笑顔でそう答える。まだ完全に童磨を信用した訳ではない唐棣と違って童磨さまは唐棣ちゃんの味方と言う事だけで子供達は童磨の事を受け入れたようだった。

「そう…」
「それに唐棣ちゃんも童磨さまの事が好きなんでしょう?」
「え?私童磨の事なんか好きじゃないけど?」
「嘘ばっかり!唐棣ちゃんは照れ屋だね!」
「童磨さまが、俺と唐棣はそうしそうあいだからねって、さっき言ってたよ〜!」
「相思相愛!?」

相思相愛だなんてとんでもない、と唐棣は童磨をキッと見るが童磨はパタパタと扇を仰いでいる。

「童磨!適当な事言わないでよ!」
「適当なんかじゃないよ、本当の事じゃないか!」
「二人とも仲が良いねぇ」
「ねぇ、童磨さまと唐棣ちゃんお似合いだねぇ」
「お似合いじゃない!」

呑気な童磨を悪気無くそんな事を言う子供達。声を荒げるのは唐棣のみで、しかしそんな光景もどこかほのぼのとしている長閑な午後だった。



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