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「お祖父ちゃん!お祖母ちゃん!おはよう!」

チュンチュンと雀達が囀り合う爽やかな朝、元気な娘の声が響いた。

「おぉ莎弥、おはよう!」
「莎弥ちゃんおはよう、今日も良い天気だねぇ」

娘の名は夷隅莎弥と言う。莎弥はもうすぐ15歳になる明るくて可愛らしい娘で、母方の祖父母と三人でこの家に暮らしている。庭に出て朝の日課である柔軟体操をする祖父と、箒で掃除をする祖母。それはいつもの朝の風景で莎弥も手伝おうと二人の元に駆け寄った。

「そう言えば誰か来ていたの?」

途中莎弥は台所に食事を終えた膳が置いてあるのを見た。祖父母のどちらかが先に朝食を済ませた訳ではなさそうだったし、こんな朝早くに客でも来たのだろうかと不思議に思い莎弥が問えば祖母は「ああ」とニコリと笑った。

「夜中に鬼狩り様がいらっしゃったのよ。朝食を済ませたらもう出かけられたけど」
「そうだったんだ!私も鬼狩り様にお会いしたかったなぁ。ねぇどんな方が見えられたの?」

莎弥の家は、藤の花の家紋を掲げた家である。
藤の花の家紋がある家は鬼狩りに命を救われた事があり鬼狩りの為に寝床や食事を用意したり怪我をしていれば医者を呼んだりと無償で尽くしてくれる事になっている。莎弥の祖父母も若い頃に鬼に襲われ鬼狩りに救ってもらった事があったからそれ以来夷隅家は藤の花の家紋の家として立ち寄った鬼殺隊士達の手助けを行っていた。昨晩も莎弥は寝ていて気付かなかったが一人の鬼殺隊士がやって来て祖父母は寝床と朝食を用意し隊士をもてなしていたのだった。

「ハキハキとお話される気持ちの良いお方だったわ。ばばの作るご飯をうまいうまいと何度も言ってくれてねぇ」
「へえ!良い人なのね!」
「えぇ本当に。また是非ともうまい飯を食べさせてくれと言って帰られていきましたよ。莎弥ちゃんよりも少しばかり年上な方だと思うけど…しっかりとされた立派な方でしたよ」
「鬼狩り様は素敵ね…近所の奴等とは大違い!きっと鬼狩り様の男性はお前親が居ないんだろうと幼稚な事を言ってくる輩なんていないんでしょうね」

藤の花の家紋の家に訪れる鬼滅隊士は中には尊大な態度を取る者もいるが基本皆丁寧である。若い隊士でも鬼と日々戦っているせいか精神的に大人で礼儀正しく莎弥に子供染みた事を言ってくるような幼稚な輩はいない。

「そうだねぇ。でもその事は気にしなくていいんだよ、親が居ようが居まいが莎弥ちゃんは良い子なのだから」

祖母が言うように莎弥には両親が居ない。莎弥が赤子の頃病にかかり死んでしまい写真も残っていなかったから莎弥は両親の顔すら知らない。その事を近所の同い年の少年らから「親無しめ」と心無い言葉をかけられる事もあったが莎弥は祖父母の事が大好きだったし幸いにも両親の記憶が少しも無いから、何を言われても「また同じ事を飽きずに言っている」と思って気にする事はなかったのだ。

「私は良い子?」
「えぇ、おじいさんと私の自慢の孫娘ですよ」
「…ふふ!私もお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが大好きよ!」

両親が居なくて小さい頃は寂しい思いもしただろう、だが莎弥は卑屈になる事なくとても素直に育った。祖父母の育て方が良いのかそれとも莎弥が持つ本来の性分か。莎弥と祖父母の仲睦まじくとても良好で、訪れた隊士達の中には羨ましいと思う者も居る程とても仲の良い平和な家族だったのだ。

 


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