可哀想なあの子 | ナノ
01

俺があの子に出会ったのは何気ない毎日の中での事だった。

その日も俺は万世極楽教の教祖として哀れな信者達の言葉を聞いていた。商売に失敗し多額の借金ばかりが残ってしまっただとか、働き手の父親が病で倒れてしまいこれからどうすればいいのだろうかだとか、皆、それぞれの不安や不幸を抱えて俺の元にすがって来る。そんな彼らの話を親身に聞きながら涙を流すと、可哀想な彼らはたちまち涙し手を合わせ頭を下げて俺の事を教祖様教祖様と崇めるんだ。

そしてあの子…夜留子も彼らのように、不幸を抱えて俺の元に駆け込んできた。

「可哀想に…随分と怯えているね」

教団の幹部に連れられて俺の前にやって来た夜留子ちゃんは俺の顔を見る事も出来ず、俯いたままガタガタと身体を震わせ酷く憔悴していた。

「怖がらないで?ゆっくりでいいから、話してごらん?」

優しく、穏やかに、他の信者達と同じようにそう声をかければ夜留子ちゃんはゆっくりと顔を上げて、か細い声で自分の身の上話を語って聞かせてくれた。

夜留子ちゃんは3つの時に家族を流行り病で亡くしそれからは親しくも無い身内の家を転々としながら過ごしてきたらしい。どの家も裕福ではなかったから余所者の夜留子ちゃんに優しくしてくれる人なんか居なくて、やっと養子として向かえてくれたと思った夫婦も男は夜留子ちゃんの湯浴みや寝所をこっそり覗くような幼女趣味の変態でその女房も夜留子ちゃんの事を奴隷のようにこき使う意地の悪い女だった。遂に逃げ出した夜留子ちゃんは万世極楽教の事を人伝に聞いてボロボロになりながらここまでやって来たのだった。

「そうか…そうだったんだね…」

ここに来る人々は皆そうだけど夜留子ちゃんも例外なく可哀想な子だった。家族を亡くし身内からは疎まれやっと出来た家族も愛してくれず…何も無い夜留子ちゃんは居もしない神を、極楽を信じるしかなかったんだよね。本当に、本当に可哀想な子だ。

「もう大丈夫、今日からここが君の家だよ。もう怯えなくていいんだよ?」

でも安心して。俺が助けてあげるから。

「教祖様…」
「よしよし、今はゆっくりおやすみ」

夜留子ちゃんの頭を撫でた後縮こまった身体を包むように抱き締めてやれば張り詰めていた糸がプツンと切れたのだろう…夜留子ちゃんの力が抜けて俺の腕の中でスゥスゥと眠ってしまった。

「教祖様、私共が部屋まで連れて行きましょう」
「いいよいいよ、今日は俺が見ててあげる」

夜留子ちゃんを膝の上で抱えなおし改めてその顔をまじまじと見てみる。わぁ、なんて可愛らしい顔なんだろう。きっとその味も、美味しいんだろうなぁ。

「良い夢を見るんだよ…」

夜留子ちゃん、夜留子ちゃん。どこにでもいる不幸な少女、夜留子ちゃん。大丈夫だからね、夜留子ちゃんの事も、俺がちゃんと救ってあげるからね…。

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