◎ かくしごと
額にキスされてくすぐったさに身をよじると、耳元で「おはようございます」と言われた。
その瞬間、思った。
日課となった朝のジョギングの間も、俺の頭の中はその事ばかり。
当の本人はすぐ後ろを走っていて、時折「花が咲いてますね」とか「疲れていませんか」とか「あ、グウェンの声が」とか言ってる。
俺はその言葉に「あー」とか「えー」とか返すだけで、やっとジョギングを終えた頃にはいつもより疲れていた。
悩んでいてもだめだ。
男らしく、覚悟を決めなければ。
自室に帰り替えの服に着替えて、コンラッドの脇をすり抜けようとしたとき。
ぐ、と左腕を掴まれた。
反射的にやばいと感じて振り返ると、彼はあの爽やかな笑顔のまま口を開いた。
「隠し事、してますよね?」
なんで分かんの?
「…いやー…その…ちょっと待って!」
腰にまわそうと伸びてきたのであろう腕を振り切って、ベッドの上に飛び乗る。
スプリングで揺れた体は、素早いコンラッドの腕に支えられた。
見上げてくるコンラッドを、可愛いと思った。
「…で、どうなさるんですか?」
「み、見下げたい気分…」
「奇遇ですね、俺は押し倒したい気分です」
頬に伸びてきた両手をつかまえて、喉を鳴らした。
覚悟を決めなくては。
「…コ、コンラッド…」
「なんですか?」
「動かないで…」
コンラッドの手を握っていた右手を離し、普段触ることのできないコンラッドの前髪をかきあげる。
あらわれた額に、意を決して
ちゅ、
できた。やっと。
唇を離して、コンラッドの両手をぎゅっと掴んで目を閉じた。
恥ずかしい、けど嬉しい。
「…陛下?」
「…起きた時から、したかったんだよ。あんたが、毎日おでこにキスするから」
コンラッドは、どんな表情をしているのだろうか。
震える声で
「…陛下ってゆーな。名付け親」
とだけ言うと、
「あーもう!あなたって人は!」
抱きしめられた。
end
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