マ王 | ナノ

 かくしごと

額にキスされてくすぐったさに身をよじると、耳元で「おはようございます」と言われた。





その瞬間、思った。





日課となった朝のジョギングの間も、俺の頭の中はその事ばかり。

当の本人はすぐ後ろを走っていて、時折「花が咲いてますね」とか「疲れていませんか」とか「あ、グウェンの声が」とか言ってる。

俺はその言葉に「あー」とか「えー」とか返すだけで、やっとジョギングを終えた頃にはいつもより疲れていた。



悩んでいてもだめだ。
男らしく、覚悟を決めなければ。



自室に帰り替えの服に着替えて、コンラッドの脇をすり抜けようとしたとき。



ぐ、と左腕を掴まれた。


反射的にやばいと感じて振り返ると、彼はあの爽やかな笑顔のまま口を開いた。

「隠し事、してますよね?」

なんで分かんの?

「…いやー…その…ちょっと待って!」

腰にまわそうと伸びてきたのであろう腕を振り切って、ベッドの上に飛び乗る。

スプリングで揺れた体は、素早いコンラッドの腕に支えられた。



見上げてくるコンラッドを、可愛いと思った。



「…で、どうなさるんですか?」

「み、見下げたい気分…」

「奇遇ですね、俺は押し倒したい気分です」

頬に伸びてきた両手をつかまえて、喉を鳴らした。

覚悟を決めなくては。

「…コ、コンラッド…」

「なんですか?」

「動かないで…」

コンラッドの手を握っていた右手を離し、普段触ることのできないコンラッドの前髪をかきあげる。



あらわれた額に、意を決して






ちゅ、






できた。やっと。

唇を離して、コンラッドの両手をぎゅっと掴んで目を閉じた。



恥ずかしい、けど嬉しい。




「…陛下?」

「…起きた時から、したかったんだよ。あんたが、毎日おでこにキスするから」

コンラッドは、どんな表情をしているのだろうか。

震える声で

「…陛下ってゆーな。名付け親」

とだけ言うと、






「あーもう!あなたって人は!」




抱きしめられた。


end


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