◎ 最高の口説き文句だ。
うっすらと笑みを浮かべたまま俺の足を撫でるコンラッドの瞳は、昔と変わらず銀の虹彩が散っていた。
最高の口説き文句だ。「痛くないですか?少し土踏まずが出ちゃってますね」
「いたくないー。このまま寝そう」
「眠ってもいいですよ。夕食は運ばせますし、後は風呂に入って眠るだけ」
ふかふかと沈むベッドの上で、最近疲れ気味の足をマッサージしてもらう。
じんわりと染み込んでいくような気持ちよさと、かたまった凝りをほぐされるような解放感。
お湯で温めたコンラッドの手のひらは大きくて、包みこむように撫でられたら僅かにうなじの辺りがざわつくほどだ。
「あんたの目ってさ」
意外に長い睫を伏せた目もとが、不思議そうにこちらを見る。
「銀がきらきらしてるよな」
「きらきら…というほどではないですが」
「それ、すっごく綺麗。星の欠片を散らばらせたみたいな、無数の宝石が反射してるみたいな」
「ありがとうございます。けれど、ユーリの瞳の方が綺麗ですよ。深い黒曜石は光を受けても高貴な黒のままで、すべての色が混ざってひとつになったような、素晴らしく美しい色」
「…ギュンターかよ。背筋が寒くなるからやめて」
そう言いながら顔を背けても、感じるのはこっぱずかしさだけではなかった。
ギュンターの讃辞は常軌を逸したものがあるが、コンラッドはあくまで理性を失わず淡々と言うものだから思わず照れてしまう。
じっと見つめられながらなんだから尚更だ。
「あんたの世界って、きらきら輝いてるのかな」
「…え、なに?」
問い返す合間に意味を理解して、コンラッドは笑う。
それでも俺の言葉を待って、とろけるような顔をした。
「その銀がさ、視界に散らばって…見たもの全部が輝いて!それってすっごいいいよなー……なんて。なんだよ、笑うなよー」
「失礼。あまりにも、その、…かわいくて」
「…俺が悪かったよ」
ありがとうとマッサージの終わった足を引き寄せ、膝に顎をのせてみる。
コンラッドは思案するように指で顎を撫でた後、片手をベッドについた。
そのまま膝立ちになり俺の背後に手をついて、目尻を指先でなぞる。
そのくすぐったさに笑うと、コンラッドは囁くように言う。
「きらきらしてますよ」
「えっ、まじで!」
「ええ。本当に」
「おお!俺ってどんな風に見えてる?」
「…輝いてる」
くらりと目眩がしそうな程の、低く甘い声。
「口説き文句みたいだな」、と熱くなった頬をおさえながら言った。
上目遣いに見つめてみせると、コンラッドは柔らかく微笑んでみせる。
あの悪戯が成功したみたいな笑顔の意味を、一人になった部屋でようやく理解した。
今日も彼の世界は、きらきらと輝いているらしい。
(恋は盲目なんて、ほんとなんの冗談。)end
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