マ王 | ナノ

 なんでもどうぞ

王の室内に足を踏み入れて、既にボールとグローブを用意しているであろうユーリを探した。

朝起床の声をかけさせて頂き、そのまま今まで一緒になることはなかった。
もうすぐ夕陽に代わる太陽は暖かく、ロードワークの代わりと約束したキャッチボールの迎えに。


お気に入りのソファにその姿はなく、奥の部屋を開けると彼は立ち尽くしていた。



「失礼します、陛下。どうかされましたか」

「陛下ゆーな」

「母上が、来ていました?」


覚えのある香水の匂いは広い部屋に微かに漂い、彼はすん、と鼻を鳴らす。
そのまま頷いて、ベッドサイドに置かれたランプの灯りをつけた。


「お土産にこれをもらったんだよ。温度とか湿度で、色が変わるんだって」

「へえ。だから寝室に」

「それでさあ、コンラッドー。聞いていいのか分かんないんだけど…」


左手にはめたグローブをいじりながら、少し唇を尖らせる。
なんですかと促しても、彼は眉根を寄せて母音を繰り返すばかりだ。




また母上に、何か良くないことを吹き込まれたのではないだろうか。

少し目を離せば、純粋な主はすぐに何もかもを吸収する。





「なんでもどうぞ」

「うん…眞魔国では、同性愛は普通なんだよな?」

「ええ、まあ…」


嫌な予感しかしない。



彼も言いにくそうに視線をあげず、不自然な空気が広い部屋に立ち込めていた。
実の母親の香水とともに。


「普通っていうのはつまり、日本で男が女の子を好きになるみたいにってことだよね」

「法の上では」

「で、眞魔国は栄えてる」

「はあ」

「もしかしてだよ。もしかして、魔族の皆さんってぇ…」






なんでもどうぞ、なんて言ってしまったばっかりに。







「男同士でも、妊娠できるの?」

「妊娠…ですか。また、どうしてそんな話に」

「ツェリ様が、次男とはどうなのかしら、私はいつ可愛らしい蜂蜜ちゃんが見られるのかしら、なんて言うから…」

「母上にとっては孫ですからね」


そこじゃない、と半笑いの目線が語り、彼はさらにボールを真上に高く上げる。


「あんまりにも自然に言われたから、ついぺらぺらと…」

「なんて返されたんですか?」

「…ずるいぞ。俺の質問が先」


ようやく彼は視線を合わせてくれたが、すぐに逸らされる。



年頃の、しかも純粋なユーリには恥ずかしいものだったのだろう。
きっとからかわれただけだと思うが、俺との間を公表して間もない彼はいろんなことに慣れていない。


「先、ですか。また貴方は、どこでそんなことを覚えてきたのやら」

「はあ?」


意識して、唇に緩やかな笑みを。


「確認してみましょう、ということでしょう。俺はいつだってかまいませんよ。それこそ、どんな結果に落ち着こうと」

「はあ?」

「寝室で仰るということも、もしかして確信犯ですか。でも貴方にはそろそろ危機感を持って頂かないと」

「こんっ、コンラッド…!」

「覚悟も責任も、もちろん愛だってありますから」

「なんかあんた気持ち悪いよ!」


酷い言葉を叫びながら、踏み込むと後ずさり、彼はベッドにひっかかってスプリングに腰をつく。
一瞬振り返って、しまったと顔を歪めたときにはもう遅い。体温を上げた頬に指を滑らせば、ユーリは誤魔化すようにひきつった笑いを見せた。


「ちがうっ!あの、言葉で教えてよ!一言じゃん!」

「俺は混血なので、どうでしょう。でもユーリは魔族ですから、もしかすると」

「おおお俺だってお袋は普通の人だよ!」


彼の足をまたぐように膝を乗り上げる。
逃げられると追いたくなる本能が、自分にも備わっていたことを彼と出会ってから知った。



半身を軽く起こしただけのユーリの赤い唇が誘っているようで、顎を緩くつかんだ。
こうされると彼は弱いのか、視線だけで戸惑いを訴えてくる。押しに弱いのは、果たして幸か不幸か。


「あああああ、分かった!俺はしがない地球生まれ地球育ちのただの野球少年だけど、あんたは違うじゃん!」

「俺だってしがない旅人と愛の狩人の息子ですよ」

「でも剣豪と眞魔国三大魔女の息子だろ!コンラッドの方が可能性あるって!」

「可能性…ですか。それは、もしかして」


調子が戻ってきたのか、ユーリは俺の腕の中から抜け出す。
まだ距離をはかりながらベッドに座りなおして、けれど頭はフル回転しているのだろう。





しかし良い道を見つけたとばかりに輝く瞳に、自分は滅法弱い。


ユーリの期待を壊したくないのと、ユーリの期待には何でも答えて差し上げたい本能は既に刷り込まれてあるのだ。




「あんたが言ったんだからな!魔族は男でも妊娠するかもって!」


そして愛しい恋人は、ぐっと距離を詰めて、本当にどこで覚えてきたのか声を低く抑えて呟いた。


「覚悟も責任も、もちろん愛だってあるよ」





ないはずの何かが疼くくらい、男らしいユーリに惚れ直した瞬間だった。














もういい、と小さな頭を軽く包んでも、彼は口を離さなかった。
涙目になりながらじゅぷ、と音を立てて限界まで飲み込む。
入りきらなかった分は微かに震える人差し指と親指で緩く擦られて、思い切りが良いのに拙い仕草にごくりと唾液を飲んだ。

尖らせても溶けそうなほど柔らかい舌が裏筋をくすぐる。
粘ついた音を立てて引き抜かれてはくわえこまれて、際限なく上がりそうな体温に襟もとを緩めた。


ベッドサイドのランプは段々と妖しい赤に変化し、暮れた窓の外から薄いカーテン越しに月が差し込む。



「ゆーり、もう、いいから…」

「でみょ、こにょちゅひは、」

「え?あの、口を、」


小さな口が仕上げとばかりに先端を吸い上げ、背筋が瞬間粟立つ。
一時期遅漏の疑いもあったはずなのに、尿道を駆け上がってくるものをぐっとやり過ごした。
それでもユーリは、にが、と零す。


「その気になった?」

「その気、ですか」

「俺も男だから。いっつも言ってるだろ。あんたばっかりこれ使うのはずるい」


ボタンを外してくれながら顎で股間を示されて、どう答えていいか分からず乾いた笑いを見せた。


「でも、俺なんかに突っ込んでも何も面白くないですよ、多分。そっちは向いてないですし」

「俺もいっつもそう思ってるよ。てか俺は向いてるみたいな言い方やめろよ怒るぞ」

「あの、でも、っいた」


はだけた首筋にいきなり顔を寄せられ、鎖骨を噛まれた。
口をついた素直な感想にユーリは口を離し首を傾け、再度鎖骨を甘噛みする。

触れる唇は柔らかいが、加減が分かっていない噛み方は少し痛いだけだ。
けれどすぐ傍にある恋人の身体に、興奮は冷めやらない。


「いひゃい?」

「くすぐったい、かな」

「寝てよ。これじゃいつもと変わらない気がする」


ベッドの背もたれに預けていた背中を横たえ、膝立ちのユーリを下から見上げる。
赤くなった頬には笑みが刻み込まれていて、手を取られてその頬にあてがわれる。


「経験ある?」

「こっちはないんです」

「良かった。…こことか、どう?」


左手で上半身をまさぐられ、乳首を摘まれた。違和感しかなく、曖昧に息を零した。


「なんだよー」

「痛くも、くすぐったくも」

「ない、と。なに、感じるのはここだけかよ」


ぬめる指先に先端を弄られて、喉の奥からようやく息が漏れた。


「あの、」

「んー?」

「本当に、突っ込む気?」

「うん。…あ、うまくいかなくても怒るなよ。初めてなんだから…」

「これは実験?」

「妊娠どうこうの?違う違う。よく考えたらそんな簡単にしていいものじゃないよ、そういうのは。きちんと成人して、安定した職に就いて、お互いの親御さんに挨拶して、同棲してからだろ」







何が問題なのだろう。




寛げられたスラックス越しに股間を撫でると、ユーリは驚いて体をよじる。
そのままじっとこちらを見つめて、俺の手首を掴んだ。


「痴漢!」

「そんなに緩く触られても感じません」

「え。…じゃあ、」

「教えますから」


軍仕込みの返しで掴まれた手をねじり、反対にユーリの手首を掴む。
驚いて視線を逸らした隙にもう片方もまとめて掴み、足の間に割って入った。少し体重をかければ、体勢は逆転。いつも通り押し倒すことができた。


「ずるいっ!ず、る…っ」


舌先で擽るように喉を舐めあげ、細い顎に歯を立てる。
もう少しぐずぐずになれば、食べられそうで怖い、と煽る言葉を言ってくださるのだが。
色のついた息を吐くユーリの唇を啄み、わざと位置を変えて頬と口端をかぷりと刺激する。


「ん、っあ…!」


そのまま頬を辿り耳朶を甘噛みすれば、遂にユーリは甘い声をあげた。


「おや、きちんと覚えてくださっていますか?」

「無理だって!」

「じゃあ今日はこのまま」

「っ!じ、自分で脱ぐ!目つむってろばか!」


どうあっても主導権は渡してくれないらしい。

積極的なタイプも好きだが、やはり自分は脱がせたい派だ。
少しがっかりしながら、閉じたふりをして薄目を開けたら気付かれて股間を蹴られそうになる。



そして、やばいなと眉を動かす。衣擦れの音は、急に静まり返った室内に響いた。
まだ陽に灼けていない肩を、浮き出た腰骨を。程よくついた筋肉に、うっすらと浮かんだ腹筋。
それらすべてが想像できて、性を覚えたての少年のように高められていく。





どこまで溺れるのだろう、自分は。

















思い切り爪を立てられて、ひきつる細い痛みに奥歯を噛む。
それでも漏れるのは恍惚とも苦笑ともつかない息だけで、指先の感触に下腹部が重たくなっていく。

二本目は吸い付くように迎えられた。閉じようとする周囲をなぞるといやらしくひくついて、ユーリはさらに俺の肩に回した手に力をこめる。



潤滑油と、どちらともしれない精液と。
浅く抜き差しすれば、にちゃにちゃと粘ついた音をたてた。物足りないのかユーリは腰を揺らし、そのたびに硬く反った屹立が腹にあたった。


「それ、いやだって…っ」

「慣らしておかないと、貴方がつらい。それにほら、奥まで届くように、ほぐさないと」

「なんっ、で…?」

「…一番奥で出すと、男の子ができやすいんですよ」


もちろん迷信だけれど、ユーリは一気に体温を上げて呻く。


「やっぱりあんた!ド変態だっ!」

「まあ否定はしませんけど。でもユーリも、気持ちいいことは好きでしょう?」

「ちがうっ、俺は…んああっ!」


こりりとした感触。こするように指を動かせば、ユーリは細く精を飛ばした。
のけ反った首筋のせいで赤い小さな乳首が目の前をちらつき、欲望に負けて吸い付く。
このまま吸い続ければ甘い何かが出るんじゃないかと思って、可愛らしい粒を舌で包み転がした。舌の動きに反応して、ユーリのナカはどくどくと動く。


「吸うなばかっ…!」

「イイくせに」


頬を掴むと涙に濡れた目を少し開く。
唇を覆うようにキスをしかけて、ぬるく甘い唾液も獣のように舐めて絡めた。


「ふ、…っはあっ、食べられそうで、こわい…!」


熟れたナカに突っ込んだ指側の腕で持ち上げた片足の震えが時々、ぴくっとした反応に代わる。
ぐちゃぐちゃと掻きまわす指を伝って液体が零れ、引き抜けばユーリは軽く達した。







こんなに感じるまでに開発したのは自分だが、時折無性に怖くなる。
見目麗しい恋人を持つと、本当に苦労する。




誰かに盗られたら、肌に触れられたら、邪な感情を持たれたら。
最近は自慰に使われることすら腹立たしくなってきたのだから、自分は相当に独占欲が強くなってしまったのだろう。




「そろそろ…いれてもいい?」

「んん、だすなよ…っ…!」

「え?」

「中出しすんなっ…」


下着の中が非常に気持ち悪い。
抑えられない欲望を流し込むように唇を押し付け、滑る手でズボンと下着を下ろした。跳ね出てきた性器はぬらぬらと光る。
擦りつけると可愛い恋人は細く喘ぎ、息を止めようとするから舌で唇をこじ開ける。愛しい声も逃がさない。


「いい所だけを見せようと、これでも頑張ってるんですけど…っ、駄目ですね、ヤりたくて仕方ない…」


熱く熟れた、ほどけるように吸い付いてくるナカへと。
二度三度引きながら押し進めた。ユーリはしがみついてきて、耳元で激しい息を吐く。


「痛い…?」

「いた、くはない…けどっあ、く、くるしい…っは…でかいんだよばかっ…」

「…ユーリのせいだけどね」







本当に、貴方だけのせい。











――――――――――――――――









「それで、ユーリはなんて答えたんですか?」


無意識につけたという、俺の鎖骨の噛み跡。
こすれば薄くなるかなあと、先ほどから指でこすられて少し痛い。

そこから目だけを上げて、ベッドに並んで横たわる恋人はもうなんでもないように答えた。


「ツェリ様に?」

「ええ。孫はいつ見られるのかと問われて」

「あー、そのうちあなたさまの可愛い次男がうみますよって」

「……俺ですか」

「俺うめないもん」


俺もだけどね。







けれど、貴方との愛の証ならば小さな命を大切にしたいと思う。




暑いといやがる肩を抱いて、太陽のにおいのする黒の髪の毛に唇を落とした。










貴方に似た男の子がいい。
活発に動く小さな手と足を包んで、「貴方にそっくりだ」と言おう。



女の子ならば、貴方にはまた嬉しい悩みの種ができるね。



俺に似ていたら?
貴方がうんと可愛がってくださるんでしょう?





俺はそれが、とても嬉しい。








もう、なんでもどうぞ。


end



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