マ王 | ナノ

 この恋にごめんなさい

「俺、結婚しようと思うんだよね」


少しだけ目を伏せて、照れくさそうにはにかむ貴方はとても幸せそうで、だからなぜだろう、酷く言葉に詰まった。



下手をしたらすべてを壊そうと動きかねないこの口で、「おめでとうございます」と言った。そうとしか言えなかった。




貴方をさらうことができていたなら、こうやって実の弟との微笑ましく着実な物語を傍観したりなどしない。





これでこの恋も終わりか、なんて考えたら、余計に彼が愛しくなった。







――――――――――――








式典は当たり前だが盛大に開かれ、そして当たり前だが全国民が二人を祝福した。

国内外から贈られる祝いものに彼は毎日のように目を丸くし、幸せを噛みしめるように俺を見た。


「うわー…俺、なんかすっごい嬉しいかも…」

「魔王陛下の新たなる道を祝福して…ご結婚、」


手紙に書かれた祝福の言葉は感情もこもらず口内を滑る。




いつだってそうだ。


結局自分は表面だけを取り繕っただけで、言葉数が少ないせいか過大評価だけがつきまとう。


気付いた時にはもう遅い。
大切なものを零しても、拾い方もわからない。



ただ彼の後をついていくことが、幸福だとようやく思えたのだ。




嫌われたくないからともっともらしい理由をつけて、彼には告げなかった。




そうしたら彼は、実直に誠実に真剣に、何度も悩んで考えて一生懸命時間をかけて、俺の”弟”を選んだ。







俺は貴方が好きなんです。







柔らかくて可愛らしい女性なんかよりもずっと、鈍感で野球少年で真っ直ぐな、正義感に溢れた貴方のことを、好きになってしまったんです。





貴方が今、恋をしている。


その横でいつも、俺は貴方に恋をしていた。






伝えるつもりなんてなかったのに、今ではもう口をついて溢れ出しそうで、零れ落ちそうで、大事なことすら伝えられない。


「ヴォルフラムなんてさあ、式が終わった後にベッドに直行してぐーすかなんだぜ。服なんてしわくちゃでさ」





俺は貴方が好きなんです。



誰よりも幸せになってほしいと願うくらいには。







「最近は別れるぞなんて言葉も効かなくなって、もうどうしたらいいか」




大切な人の魂だった貴方は俺の目の前でその殻を破り出た。

小さな可愛らしい名づけ子は、護るべき主となった。




素晴らしい王は愛しい方となり、ある日突然俺から離れていった。




「あ、コンラッド」


今更愛しいといっても、きっと貴方は笑って茶化すでしょう。

それは喜ばしいことなのか、今までを後悔するべきなのか。もう俺には分からない。



「ありがとう」





でも、俺は貴方を大切にしていたでしょう?
貴方を思い続けて、貴方を幸せにできたでしょう?






「どうか末永くお幸せに」なんて嘘か本当か分からない言葉を口の中で転がして、貴方に隠し事をひとつ。


end





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