マ王 | ナノ

 忘れかけてた恋をする

いつもより念入りに掃除をさせて、誰もいなくなった部屋を見つめてみる。
撫でたシーツは心無しか眩しい程の白で、ごきゅんと喉から変な音がした。


そわそわと落ち着きなく室内を歩き回り、鏡の前に立つ。



いつものことながら地味な色の軍服に、十人並みな顔。
手触りも大して良くないぱっとしない色の髪を意味もなく梳かし、軽く膝をうった。




もう少しだけ顔が良かったなら。

もう少しだけ背丈があったなら。

もう少しだけ余裕があったなら。


もう少しだけ、なにかが自分にあったなら。



あげればきりのない欲をぐっと胸にしまいこみ、唯一自信のあるポーカーフェイスを頬に刻み込んだ。

しかしこれもまた、愛しい人を前にすると途端に効力を薄れさせる。


「今日、夜あんたの部屋に行くからな。」


全てのなぜ、を極限までこらえて、ただ「迎えに行きます」と告げた。
あの時の自分の顔は、果たしてどんなに情けなかっただろうか。



殺風景な部屋。
広さを持て余し、多くを奥のこの寝室で過ごしている。


壁の本棚には移動図書のものがあったので、よけておいた。
床は磨き上げられ、新調したカーペットをしいて。
こうやってまた、少しでも良い所だけを見せようとする自分に笑えてくる。



かつて交際関係のあった女性たちを、自室に入れたことはなかった。

全ては宿で事足り、むしろ自分の領域を侵されたくはなかった。

相手が求めれば甘い言葉を囁き、金をかけ、放任も束縛も与え、身体も明け渡した。


けれど今は、彼と宿で事を済ませることに嫌悪を感じる。
行くとするならばきっと、趣向を一時変えたい時のみだろう。



鏡に映る自分。


誠実で穏やかで爽やかで。
よく言われる言葉はすべて、平凡という語に置き換えられる気がした。




彼は何度も丸い頬を赤く染めながら、ずるい、と呟く。


百年の差はどうあっても縮まらないし、むしろこの年の差が唯一貴方が俺に惹かれる理由でしょう?



俺の方が貴方のことを、先に好きになったのに。

こんなくだらない意地を、どうか笑ってほしい。



響く小さなノックの音。
軽く首を振って、せめて怒ったような顔だけはつくろうか。



ああ、その前に。


全てを見透かされたようなこの天蓋付のベッドを、どう言い訳しよう。


end




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