遥は首領ヴァレンティーノの純和風屋敷の一室で、点滴をされていた。医療班に、強引に。悪党は体が、資本であるからと。
開いた襖に顔を向ければ、ガブリエラが 「おい!白いの、迎えが来たぞ」 っと声を掛けてきた。

「え?死神」
「発想が瀬戸際であろ―」

呼ばれるように現れたのは、遥と同じ白服を着た女の子と男の子の二人の若者だった。ビシっと敬礼を行なえば挨拶をする、大事な仲間がお世話になりましたっと。
「紹介するよ首領」 っと言えば二人に指を差す。

「アレ、背景。僕のオマケ」

ほ―っと納得する首領に 「せめて脇役扱いはして欲しいっス」 っと右手を上げて女の子は言う。
「自分、夏輝といいます!こっちのヒョロ長いのが弥太郎、共に遥さんと首領を守ります」
僕の手足みたいなモノだよっと、遥は付け足し 「僕の苦手な戦闘や力仕事やパシリを代わりにやってくれるんだ」 っと言った。

「お主は人の優しさに生かされておるの―」

首領は 「お主は参謀役なのだな」 っと言うので 「うん」 と遥は返事をするが、行き詰っているので頭脳を貸して欲しいと頼む。

「猫好きを、犬好きに変える方法?」

人の心をどこまで操れるか知りたいと言う。対象が犬猫なら類似点も多くやり易いっと。
応用すれば日本国民を、ヤギ好き化も夢じゃないよっと言えば 「首領、国民的アイドルだね」 と告げる。
演説台に立ち、ヤ―ギヤ―ギっと言われる光景を想像すれば 「CDでも出すかの―」 っと。

「良かろ―!試作品だが良いマシーンがあろ―、持って行け」
「ありがと―(ハート)」

そして首領は 「実験体にふさわしい猫好きもおろ―」 っと言った。その言葉に、遥は携帯を出して一通のメールを送った。


* * * *


最近、ここの、つまり原作の記憶が定かじゃないなぁっと思っていると携帯の受信音が鳴る。メールがきたことを教えてくれている。
届いたメールの内容を確認すれば “ 今日会えるよ ” の一言だけ。送り主が会いたがっている訳じゃないことは確かだ。なので、誰に会えるんだろうか?

「っというか、名前とか、挨拶入れるとか社交辞令っつうのは知らないのかなぁ」

そのメールに苦笑いをすれば、つい先日の出来事を思いだした。
原作を知っていたからこそ、知らないアドレスが誰だか分かったけど。知らなければ、迷惑メールとして削除し兼ねなかったなぁっと。
ひとり、そんなことを考えていたら自分を呼ぶ声が聞こえた。


「名前!座りなさいっ」


その声が事務所に響けば会議タイムだ!っと洋が言い、3人が並んで椅子に座り、向うように座らせられる。
この前から延々と 「連絡をくれても、心配するから途中でいなくなるな」 やら 「お前だけ遥に会うなんてズルいっ」 と言われている。

「因幡さん…、それについては名前さんが謝ってくれたじゃないですか」
「そうですよ、先生?しつこいと嫌われちゃいますよ」

優太から言われたこと言葉に 「え!?」 っと洋は反応し固まってしまうが、その直後に 「そうですよ!因幡さん、心配し過ぎるとハゲちゃいますよ」 と圭に言われてしまう。
ビクッとなれば、隣の部屋から掛け布団を持ち出してくる。

「って!それ、わたしの!!?」

洋は一度、ガバっと布団を広げ自分を包めば部屋の隅で丸くなった。

「あのぉ、…洋?」
「因幡さん、どうしたの」

顔だけ覗かせるように、洋は 「圭のバカ!やっぱりお前なんか嫌いだ」 っと言う。
先ほどまでの圭の言葉を思い返して 「洋はハゲ無いから、大丈夫だよっ」 と言うが 「そ、それもあるけど!違う」 っと、声を上げられてしまう。


「何かしたの?」


優太の言葉に、今日の行動を思い出せば 「圭くんは、遅刻するってメールで連絡くれただけだよね」 っと言ってあげる。
「うん、電車止まって遅刻はしたけど…、メールで知らせたよね?」
圭が、優太に言うように喋れば洋が 「そう、そのメールだよ」 っと反応する。


「毛のない猫の写真添付すんな!俺にとってはホラー映像だ!」

それは、犬のように吠える洋に 「我がアイドル、ルナですね」 っと圭は輝きだす。

「猫アレルギーの俺に優しい、無毛猫スフィンクス」
「ここぞとばかりにいい顔すんな!」

キラキラっと輝き続ける圭は 「こんなにかわいいのに」 っと思いだす。今日送って来た写真の光景。
フギャーっと目を光らせ口を開けている。歯が鋭い。バックは暗く、光はベットスタンドの灯りのみだから少し不気味に映し出されていた。


「怖ぇよ、夢に出たら何時だろーと苦情の電話するからな!」


洋は泣きべそで言えば 「猫アレルギーで、よく猫好きやっていけるね」 っと、優太が質問をする。えへっと笑えば、 「心も体も猫に過剰反応しちゃうんだ(ハート)」 っと説明をした。

「いいよー、猫はいいよー!柔らかくて気まぐれでおマヌケで」
「被毛が無いから、皮膚がクシャってなるんだよね!凄いよねーっ」

圭の言葉に、私がスフィンクスの特徴を被せれば 「知ってるんですか!?」 っと言うもんだからコクコクッと頷いた。
「名前さんも、優太くんも!今度見においでよ、うちの猫」
実物が見れるならっと思い 「ぜひっ!」 っと返事をするが 「この僕を段ボールハウスに、招待する気?」 と優太が嫌がる。 「そこまで貧しくないよ」 っと、圭は告げた。


コンコンっとノックをする音に圭が反応をする。


「あ、お客さんお客さん」
「圭くん、お客さんなら私がっ」


圭の後を追えば、開けた扉の玄関先には大きい猫の着ぐるみがお二人。実に怪しい。 「因幡さん!」 っと圭が声をあげれば、洋が 「おう!」 っと返事をする。

「すぐに40℃のミルクを用意します」

親指を立てて、嬉しそうに圭は言った。


「おもてなしするな!!追い返してあげるから、下がってなさい!」
「圭くん、絶対に飲めないからっ」

慌てて止めようとすれば、三毛猫の着ぐるみにもふっと抱っこをされていた。なぜか隣に居た黒い猫の着ぐるみにじーっと見つめられ、もふっと私も抱きしめられてしまう。

「ええぇっと、猫の着ぐるみに知り合いさんはおりませんよ」

戸惑う私に 「ギュッと掴ってください」 っと小声で言われれば、お姫様抱っこに変えられる。 「あっ!」 とその声の主に気付き、私は従うことにした。
逃げるように駆け出した猫の着ぐるみの二人に 「ああーっ、拉致られた」 っと言う洋に優太が駆け寄った。


「先生、名前さんもですよ…」

カムバーックっと広げる洋に 「因幡さん!」 っと圭は呼ぶ。

「猫の国に行く日が来たようです!今日は早退しますネ☆」
「そんな夢の国ないんだ!」 っと洋は叫ぶが、抱えられている圭は実に楽しそうだ。
「ダメだ!!アイツ猫絡むと、本当にダメだ!」


まぁ、大丈夫だよなっと思い 「心配しなくても大丈夫だよ」 と遠くの洋と優太に手を振って上げた。

「名前さんも、あぁ言ってますし、放置していいんじゃないですか?」
「えぇ!!!何で―ぇ!!?名前も!?」

今頃気付いた、洋は名前も連れ去られていることに取り乱すのだった。




お迎えは二匹の猫でした――――
(もう少しの我慢っス!)
(あ、はい…って、圭は本当に幸せそう)
(もふもふもふもふっ)
(……………)

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