短編


自由になれるのは、ここでの時間。窮屈な家では、感じることが出来ない解放感。だから、走るのが好きになった。
ただ前に前にっと足を進めていたら、隣で笑うやつが増えていた。日ノ原革と、あともう一人。

「風を切るって気持ちいいよね、だから好き」

そう言って、長い髪を風に乗せて走る天海巳束だった。


 * * * *


「えっと、天海さんって日ノ原の幼馴染みなんだって?」
「そうだよ。あ、門脇!革と同じように、もっと気楽に喋っていいよ」

まともに話した、初めての会話。
声を掛けたのは俺だったが、いきなりの名指しに吃驚をすれば「だって、門脇くんって感じでもないでしょ?」っと言われる。
その顔は、ニッと笑っていた。それならばっと“気楽に”の言葉に「巳束っ」っと口にすれば、一瞬にして間抜けな顔になった。
俺は思わず、その表情の変わり映えに笑いそうになってしまう。

「くっ、なんだよ…その顔?」
「えっと、いきなり名前を呼び捨てされるとは思わなかったので」
「んな、日ノ原も呼んでるだろ」

ん――っと、考え込めば「そうだね!減るもんでも無いし」っと笑う。その顔は、空に浮かぶ太陽と同じぐらいに。

“面白いやつ”それが、俺の印象だった。

女なのに、日ノ原と同じぐらいに足が速くて、俺に気を使わないやつなんてこいつ等が初めてだったっと思う。

「日ノ原!今日こそはお前に勝つからな!」
「いや、俺だって門脇には負けない」
「よし!今日こそは、あたしが一番に」
「「って、お前はタイム計測だろ―――が」」

「えぇ、つまんない」っと言ってゴールに立つ、巳束。
それが楽しくて、よく日ノ原と競った。気付けば、自然と話す機会も増えていった。

「巳束―――っ、先に上がるぞ!」
「あ!革、待って今行くから」

ゴール際のトラックに、手を広げて仰向けになっていれば視界に覗く巳束の顔が映る。
今日も負けたことに「何だよ?」っと、少し苛立った声になってしまう。同情っという言葉なんて、いらなかったからだ。
だけど、返ってきた言葉は違った。


「門脇って走っているときが、一番自分に正直だよね」
「え、何んだそれ?」
「なんか、気持ちよさそうに走るなあって」


覗きこむその顔は太陽の光で、見れないけど確かに笑っていた。眩しいぐらいに。
初めて言われた、見透かされたその言葉に。顔に、熱が集まった。
嬉しくて、赤くなる顔をバッと手で覆い隠し「何だよ、それ」っと言うしかなかった。


「ほら、さっさと行けって。日ノ原、待ってんだろ」
「そうだった!また明日ね、門脇」


照れ臭くて、巳束を追い払うように告げた言葉。言葉に出た、日ノ原の存在にズキっと胸に痛みが刺さるような感覚になった。
その痛みに気付けば、実感する。俺は惚れていた、巳束に。





「俺は、お前が好き」






気付かされた気持ち

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