短編
あの日の出来事から、沢山のことがあった。そして、あたしと革は二年生になっていた。
夢のようなことがあったが、あたしが革の隣のいることは変わらない。
「暑―――いっ!!」
今年もやってきたこの暑い季節。空を見上げれば、ツウーッと汗が首筋を伝う。
ボタンを開けて、手で仰げば革と目が合ってしまう。
「………白っ」
「え?」っと首傾げに見つめれば革が、プイっと顔を背けた。
「いや、なんでもない。ってか巳束、開けすぎじゃないか?」
革は口元に手を押さえながら、もう片方の手でボタンの空いたシャツを指差す。
「へ?革、これぐらい今どき普通でしょ?」
革は「いや、で、でもな!?」っと口にするが、前から「巳束――!」っと友達からの呼ばれる声にあたしは駆け出した。
「革!またあとでね」
「あ、おい!」
クルっと振り向いてそれだけを言えば、そのままあたしは校門で待つ友達のところに走った。
革は首をフルフルとさせれば「あぁ、ったく上から見えるっつうのに」っと息をひとつ吐いて、学校へと足を進めた。
* * *
「ったく、巳束のやつどこに行きやがったんだか」
教材を片手に移動教室に向かうために階段を上っていれば、巳束の声に気付き思わず足を止めてしまう。
「あはは!何それっ、門脇って革と仲良しじゃん」
「は?巳束、それ本気で言ってんのか?」
踊り場で話す、巳束と門脇の笑う声。二人に顔を向ければ門脇はこちらに気付いたようで、視線を一度向けるがまた巳束へと戻した。
その仕草に、思わず巳束の手を引っ張っていた。
「え!革、何?革どうしたの」
「いいから、行くぞ」
そこを離れようとすれば「余裕ねえな?」っと、門脇から言われてしまう。その言葉に「うせぇっ」と呟いて巳束の手をギュッと握り足を進めた。
あたしを引っ張る革は、何も言わない。革の纏う空気は怒りに満ちているようで、その後を大人しく着いて行けば使われていない空き教室に引き込まれる。
怪しい雰囲気に「あ、あの…革さん?」っと声を掛けるが、目の前の彼は背中を向けたまま何も言わない。沈黙に耐え切れず、扉へと向かおうとすればそのまま壁際に追い込まれてしまう。
「お前、分かっていないよ」
そう呟けば「空きすぎなんだってボタン」と口にし、革はあたしとの距離を詰めた。
「そんなの誰も気にしないよ」
「は?門脇が見ていたのに?」
「そんな、門脇は革のように変態じゃないから」
「ばっ、ふざけんなあいつ絶対に見ていたから」
何を言い出すのかっと思えば、なぜか門脇の名前を出す革に「ちょ近いよ、…」っと言うがその歩みを止めない。
「お前がそんなこと言うから、だからな」
強張る革に腕を掴まれ、逃げ場を無くせばその距離が零となる。
零となれば、そのまま首筋に顔を埋められてしまう。肩がビクっと跳ねれば、小さな痛みが走った。
「ん、いたぁっ…」
その行為で、赤い痕を付けられたのだと実感する。
肩に腕が伸びれば、頭を絡め取られ顎を上へと固定される。革に唇を塞がれ、こじ開けられた。
息が出来ないことに、革の胸をトンっと叩けば彼は満足げに顔を離した。
首筋にあたしが手を押さえ、最低っと告げる。
「仍ちゃんに言いつけてやるっ」
キイッっと睨むように告げれば「無駄だよ」っと言う。耳元で“早く押し倒せって、言われてるから”っと囁かれてしまう。
「すでに押し倒しているのになっ。まぁ、仍公認だから」
笑うように革が言うから、そのまま後ろへと引き下がった。
なんっつうことを革に言っているんだ。仍ちゃん!っと、思えばまた革が近付いてきて逃げ場を失ってしまう。
そのまま、胸元を指でなぞられ「この白、初めて?」っと言われてしまう。
そこであたしは、初めて下着が見えていたことに気が付いた。
「ちょ!革、見えてるなら見えてるって言えばいいじゃない」
「いや、俺今朝言おうとしたんだけど…」
「変態っ!!」
顔を真っ赤にして、あたしはボタンをきっちり閉め直すのだった。
そんな暑い日の一日
<< >>
目次|HOME