高い空に、そびえ立つのは古代遺跡のような建物。
それは見たこともない景色。「これ、夢とか?」っといえば、革がご丁寧にあたしの頬を抓るから痛い。キィっと、睨むように顔を見るが革は真顔だ。


「革、さっきまで街だったよね!路地だったよね!?」

「そうだよ、そう出口!さっきの――」


革がその出口のことを口にすれば、ガサガサと草むらから音が聞こえる。「“アラタ”様!!」と叫ぶように女の子が駆け寄ったっと思えば、革に抱きつく。

「無事でよかった!!こんなところに隠れてたんですね!?」

いかにも民族服っという格好の女の子がさらに、ギュッとしがみ付いた。「だ、誰!?」と革と一緒に言えば、その女の子が「コトハです!」と答える。

(さっき聞いた?革を、呼んだ声?)

「だから、誰!?」と革は、コトハっという子に告げるが「アラタ様!ふざけてる場合じゃないです!」と声をあげれば、カンナギ様が兵を従えてアラタ様を処刑しようと――っと説明する。
「え?革を処刑!?」とその言葉に反応すれば「この方は?」と聞かれる。
革は人違いだろ?っとコトハに構わず「巳束、出口探すぞっ」と告げた。コトハはまだ「本当です、逃げなきゃ!!」と何かを必死に訴えてくる。

「だめ!!危ない――」
「革、しゃがんで!!」

コトハの言葉に反応をすれば、何かが飛んでくるのに気付き革を突き飛ばした。ドドッという音とともに木に矢が突き刺さっていたのだ。驚愕とも言える出来事にゾクッと震えだしてしまう。

「逃げ場はないぞ、“アラタ”!!秘女王殺しは国家的重罪!!この場で処刑する!!」

馬のような乗り物に跨り、剣を肩に担いで男が叫んでいる。その男がカンナギっという。その周りにいる者たちも、民族のような装束を着ているのだ。
革は「誰!?なんの話…」と口を大きく開けているが、コトハがあたしたちに「今は、これをかぶって!!」と言って白い大きな布を渡して来た。

「「はっ!?」」
「あそこに見える“巡礼者”たちに紛れるんです」

コトハが指をさしながら説明をする。その先には、姿・顔を隠し布で覆っている集団がいた。彼らは不治の病で悲しいけど、周りの人は避けると。
その説明に革が「ま、待って!なんで俺たちが!?」といえば「周りは海です!逃げるには来た、一本道を戻るしかないです!」っと告げた。今は行くっきゃない、と思い「革っ」と声を掛けた。

「カンナギ様たちの横を通り抜けますよ!」

コトハの言葉に従うように、体勢を小さくしカンナギの男の横を通り抜ける。目に映ったのは立派な剣だった。
張り付く空気に、そのまま通り過ぎようとしたときに鈴の落ちる音がした。カンナギがそれを告げれば、落とした者が拾っていた。
緊張の糸が切れそうになるが、なんとかその場をやり過ごせば「こっちへ!」と言われ、巡礼者の列から離れた。

「儀式(マツリ)でなにがあったんですか!?ともかく村へ戻ってマカリ様と相談しましょう!」

コトハが行く先、やり取りを行なう。その間にあたしたちは、自分の携帯電話を見た。圏外の表示だ。
知らない場所、見たこともない景色に、その格好。なんで、こんなことに――。



 * * *


首都では十ニ神鞘(ジュウニシンショウ)が告げていた。カンナギは、うまく“あのアラタという小僧”に罪をなすりつけたっと。下では今頃、秘女王の死に大騒ぎだな。
これで我々を押さえつけていた秘女王は死んだ。「これからは“劍神たち”が、この世を支配する――頂点は我々、十ニ神鞘よ」っとその中の一人が言う。
しかし、秘女王は最後の天通力を使い、自分のからだ全体を膜で覆っていたのだ。外敵からの攻撃を通さない膜を。
「まだ生きて!?」と口にする者はいるが、この様子ではもうなにも出来ないだろうっと他の者が告げた。

「あとは、唯一の目撃者である“アラタ”を消してしまえば――」


 * * *


連れられてきた場所はアラタの村だと言う。縄文や弥生時代を思わせるような造り。そしてアラタの祖母“マカリ”と呼ばれるご老人が現れれば、事の流れをコトハが説明する。
革を見てマカリは「アラタ!?」と呼ぶが違う。目の前にいるのは、アラタではない。

秘女王が殺されたって!!アラタ様がその犯人だって大騒ぎに――!!っと告げればマカリは口を開け吃驚する。また、コトハが「肝心のアラタ様が何を聞いても」と言った。

「あのー、僕は“日ノ原革”で“アラタ”君とは別人ですから!」

革は「疲れたし早く帰りたいんですけど」と言えば、マカリが「ここだろ、家は」と言う。


「あんまり遅くなると家族も心配するし」
「わたしだろ、唯一のオババ」
「祖母は二年前、死にましたけど」
「勝手に殺すなーっ!!」


マカリは「バカだアホだと思ってたが、どんだけだ――っ!!」と革の服を掴めば、がくがくっと揺らす。「だから、人違いですって!!」と革は声を上げた。

「そうですよ!革はずっと、あたしと居ましたから!絶対人違いですっ」

マカリから「えっ!?」と言われ、さらに「お主は?」と聞かれる。

「あ、神開の森で一緒にいらっしゃった…えっと?」
「巳束です、天海巳束」

コトハは「どうやら“神開(カンド)の森”に喰われたみたいです」っと言った。マカリは「なに!?」っと口にすれば、革とあたしを地下室に通した。


「つまり、そなたたちは“日本”という国から気付いたらこの“天和国(アマワクニ)”に入り込んでいたと?」


革と一緒に、マカリに向かい合うように座りその話に頷く。だがマカリには、革が“アラタ”にしか見えんというのだ。言い伝えでは、神開の森に喰われ再び戻った者は“別人になる”と。
昔、そうして半狂乱になった者もいたがっと説明をすれば、マカリはひとつの答えを出す。

“異世界の人間と入れ替わる”ということだったのかも知れんと。革は「異世界!?入れ替わった!?俺はどうしたら」っと、握る手に力が入る。

「ここでいる限りは“アラタ”として生きるしかあるまい」

あたしは、まずは聞くことに専念をした。その内容だと、あたしも入れ替わりなんだろうか?っと疑問点が出るのだが。

「孫もきっと今頃そなたの世界に…」
「冗談じゃない!!」

「こっちのアラタは犯罪者なんだろ、代わりに捕まって殺されるなんてごめんだ!!」と露わに声をあげれば「断じてそのようなことをする子ではない!!」とマカリも声を上げる。
マカリは苦しむように「私は孫を信じる、もう亡くす者はいて欲しくない」っと告げれば「あ、あの」と声を掛けていた。隣では革も額に手を当てて悩んでいるが、あたしは彼を信じたかった。
だから、マカリに小声できっとそのアラタさんも大丈夫です。っと。小さく笑うように告げていた。「お主の顔、もう一度…」っと言われた瞬間に、外から叫び声が聞こえる。

「キャアアッ」の声にマカリが「コトハ!?」と言えばカンナギのアラタを捜す声が聞こえた。マカリの言った入れ替わりが正しければ、その“アラタ”はここに居る、革のことになってしまう。
マカリは、この地下室は外からは見つけられないから大丈夫というが、あたしはカンナギに捕まっているコトハが気掛かりでしょうがなかった。
カンナギは現れないアラタに苛立ちを感じ、コトハに行き先を問いつめようとする。だがコトハは、知りませんっと告げれば、掴んだ腕をより強く握った。

過ぎ去ることを願う革に、小声で「革はアラタじゃない。だけど、あたしは革の心を信じるから」っと言えば「殺されたって、アラタ様を信じるから――っ!!」とコトハの叫ぶ声が聞こえた。


「…バカみたいだ。人なんか信じたって、裏切られるだけなのに…」


「なら、望み通りに」と革が言って地下室からカンナギの前に飛び出せば、その子を放せよと告げた。革は言う“アラタを信じてんだな”と。あたしは革を信じてる。
コトハは「アラタ様、だめ、逃げて!!」と叫べば、カンナギに突き飛ばされてしまう。

「みんな間違ってるよ、俺はアラタじゃないし、本当のことも分からない。もう誰も信じたりしない。今もぶっちゃけ、怖くてしょうがない」

革は剣を構えるカンナギに立ち向かう。「けど、誰かを必死で信じている人を、見殺しにするのはもっと間違ってる――」っと。
ただ先に動いたのはカンナギ、彼が剣を前に差し出すように「“顕れたまえ”劍神―――」と告げる。


「“火焔(ホムラ)”!!」

「あらたぁ――――っ!!」








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