音楽を聞いてフードを深く被っていれば、声なんて掛けられないだろうと思っていた。
いつものロードワーク、公園の横を走っていれば、植木の縁に座っている人物に声を掛けらる。


「………黄瀬、」


普段なら声を掛けられても素通りをしていただろう、気付かないフリをして。だけどそうもいかない。
上がった息を整えながらその人物の名を呼ぶ。

「捺夏?」

名前を呼べば、俺へと顔を向ける。どうしてここにいるんだろうと、俺は見開いてしまう。

「昨日の今日なんだから、休んだら?体を休めることも重要でしょ」
「え、昨日って?アレ、なんで、ここにいるんスか……?」
「最後まで観たよ。ちゃんと」

その言葉を聞いた途端、捺夏の顔を見れなくなってしまう。勝った試合なら、見れていたと思う。だけど俺は負けた、青峰っちに。


「冬、借り返すんでしょ」


その言葉に驚いて、俺は顔を捺夏に向けた。捺夏は、いい試合だったよっと笑っている。


「ズルいっスよ」


思わず、その手を取って抱きしめていた。腕の中で、捺夏は驚いて俺の胸を両手で押し返そうとするがそう簡単にはビクともしない。


「少しだけ……でいいから」


俺の声に、分かったとでも言うように胸にあった手が下りた。それが分かった瞬間、また腕の力を強くした。

「ちょ、黄瀬!苦しい」
「俺、前も言ったけど 捺夏のこと諦めないって言ったの覚えてる」
「………覚えてるけど」
「なら、いいっスよ」

腕を回してはくれないが、今はいい。今は。いつか、ちゃんとつかまえるから。

「ここはどうして知ったんスか?」
「ああー、黄瀬んとこの先輩にメールで」
「はぁー!!?何っスか、それ!俺も知らないのに!!」
「えー、だって黄瀬にメアド教えたら多そうだからなぁ。メール」





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