“帝光中バスケ部・マネージャー”

中学時代のあたしの肩書。だけど、それを途中で消した。消去して、大好きだったバスケットボールに関わらないように逃げた。
理由は二つ。
一つは……、きっと、バスケットボールに関わってしまえば、あいつにまた逢ってしまう。
逃げるように去ったあの場所を、自分の目でもう一度見るのは辛い。二人が同じ高校に進学したのは風の噂で知っていた。


「アンタ、ウチくればいいじゃん!新しもの好きの、捺夏にピッタリよ」


あたしは幼馴染みのいる、建設されて二年目の新しい高校だからっという口車に乗って“誠凛”に来たのだが、騙された。
まさか、幼馴染みが男子バスケットボール部の監督をしているとは。そして、入学式などをサボっていたから知らなかったのだが、黒子テツヤも同じ学校だとは思わなかった。

「はぁ!なんで、テツここにいんの?」
「なんでって、部員だからですよ」
「じゃなくて!この学校にってこと」

後から聞いたが、選んだ理由はテツらしい、答えだった。

幼馴染みの相田リコはあたしよりも何枚も上手で、ことごとくとバスケ部の手伝いをやらされることに。
やっぱり、バスケットが好きなことを改めて思い知らされる。


 * * *


今日は、私立海常高校“キセキの世代”の黄瀬涼太がいる強豪校との練習試合だった。結果は、100対98で誠凛の勝ち。
あたしはマネージャーとして来て欲しいっと言われたが、正式部員ではないことを理由に行くのを断った。試合結果を知っている訳は、近くで見ていたからだ。


(黄瀬が負けを初めて知った…っか)


体育館横にある水道場で黄瀬は、頭を冷やしていた。「黄瀬」と声を掛けて、あたしは近くにあったタオルを投げた。
黄瀬はあたしの登場に吃驚しているようだ。そんな黄瀬から二、三歩下がって、近くの蛇口をゆっくりと捻った。

「見てたよ、黄瀬」
「なんで、こういうときに限って居るんスか?」
「なんでって、あたし誠凛高校だし……時々、手伝いやらされてんの」
「!?、……俺、情けねえ――っ」

黄瀬は、大きく落胆する。
あたしは、強めた蛇口の先に、指で塞いで少しだけずらした。隙間から、勢いよく水を噴出させるために。
水飛沫が、黄瀬へと掛かる。

「うわぁっ、冷たっ!!!!」

その驚きっぷりに、してやったりっとあたしは笑みが零れる。黄瀬は濡れた、髪をパサッと横に振る。飛沫がキラキラと太陽の光を反射させた。

「俺、黒子っちのこともだけど……捺夏のこと、諦めないっスから」
「ハイハイ。テツも言ってたけど、あたしも丁重にお断りさせていただきます」
「ヒドッ…ってか、そんときも居たんスね!?」
「うん。居たよ、黄瀬は相変わらずのモテっぷりなのを見ていた」

捺夏は、笑って 俺に言うがそんなことを言われても嬉しくはない。“俺は、君に惚れられればそれでいいんっスよ”って喉まで出かかったけど、言えなかった。
だって、俺はまだ知らない。捺夏が、俺たちの前から消えた訳を。

「お!黄瀬、見て!!虹だよ虹!!」

勢いよく出た蛇口の水飛沫、そこから架かった虹を見て、いつか繋がればいいって思った。きっと、捺夏は大笑いをするんだろう。俺の好きなその顔で。
虹の架け橋が君にも繋がればいい。



キミが紡ぐ虹色
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