「名前、いつになったら呼んでくれるんスか?」
「……‥え?いきなり、何」

帝光中、男子バスケットボール部に入って橙乃捺夏を知る。隔たりなく接してくれて何気にバスケも上手く、俺の周りにはいなかったタイプ。何かと気になってしまう存在。
体育館に行く為の渡り廊下で捺夏と鉢合わせれば、俺は心の中で喜んでいた。そしてどうしても言いたかったことを伝えた。


「いや、あの、えっと俺、バスケ部入って大分経つのに捺夏っちに、ずっと“くん”付けだなって」
「ダメ?」
「ダメとかじゃないっスけど、ほら!紫原っちとか、青峰っちとか名前…‥っス」


理由がこっ恥ずかしくなってきてしまい、最後の方は小声になっていった。でも、やっぱり“くん”とか付けないで名前で呼んで欲しいもので。

「あー、じゃー、遠慮なく呼ぶね」
「うっス!」
「んじゃ、黄瀬で」
「えぇ!どうして苗字……」
「え、言われた通り“くん”付けしてないよ?」
「紫原っちとかは名前なのに…?」
「だってムラサキバラって噛みそうなんだよ。それに名前の方が楽じゃん3文字で、アツシって響きいいし」

指で数えるその仕草は可愛くて、その口から出てくる名前に嫉妬しそうになった。

「なんか、ずりぃ」
「まぁまぁ、黄瀬は2文字で楽!」

気持ち肩が垂れさがるように落ち込めば、ポンっと叩かれて通り際に告げられる。そして、響きがいいっと。
その後ろ姿に俺は告げていた。もし、理由を聞かれたらコッチの方が響きがいいっスよって言おう。

「じゃあ!俺も今日から捺夏って呼ぶっス」
「いいよ。変なあだ名じゃなければ、好きに呼んで」


意外にも返ってきた言葉は、好きに呼んでいいっという承諾だった。少し気にして欲しかった俺は、ちょっと残念と思いつつ、背中に向かってボソッと呟いていた。

「捺夏」

君が名前で呼んでくれるのを想って、呼ぶから。


愛はいかがと俺が鳴く
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