「ったく、小金井センパイとかかな。連れて来たの」


会場の外をふら付くテツヤ2号を発見して捕獲した。そのテツヤ2号は腕の中で舌を出して、ヘッヘッと嬉しそうにシッポをバタつかせている。

「わんっっ!!」
「ちょ、テツ2号!!」

そのまま、控室に連れて行こうとすれば腕から抜け出し走りだしてしまった。吠えながら頻りに、こちらを振り返って追いかけるのを確認して。


「追いかける身にも、なってよねっ」


ため息をひとつ吐いて、見失わないようにあとを追いかければ、総合体育館の会場脇に不釣り合いともいえるリアカーが置いてあることに気付く。しかも、テツヤ2号はその荷車床に乗ってくるくる回っていた。

「ダメだって、2号!ほらっ、皆のとこに帰るよっ――」

台車に乗って抱きかかえようとしたら、ドクンっと心臓に負荷が掛かり、眩暈と同時に足から崩れた――――…‥



「うわっ、なんスかコレ!」

「リアカーだ。高尾にひかせて……」


ウインターカップ予選決勝リーグ、誠凛と秀徳の試合が終わった。
試合を終えた緑間っちの後にくっ付いて、桃っちと一緒に激励をすれば立派な専用車を間近で見ることになった。ただ、その荷車の光景に固まってしまう。
わんっ!わんっ!と人を待ち兼ねたように吠える犬と、その後ろに、蹲るように横たわっている捺夏の姿があったのだ。

「…‥‥ん?犬と橙乃、」
「ちょ可愛いこの子犬、え!?捺夏ちゃん!!」
「ど、どいて」

目の前にいた緑間っちを押し退けて、俺は駆け寄っていた。リアカーに眠っている捺夏を見て、息を飲んだ。時が止まった気がした、息をしていないようで。

「きーちゃん!!捺夏ちゃんは!?」
「大丈夫っ、スよ。眠ってるだけ…‥みたいっス」
「とりあえず、橙乃を起こすとするか」
「みどりん、それはヒドい!!」

桃っちと一緒に同意するかのように、リアカーにいる犬もわんっ!と吠える。俺は、緑間っちに「その必要はない」と口にした。
起こさないように膝の裏に手を入れて、捺夏の腕を俺の肩へと回す。
そのまま横抱きで、捺夏を抱え二人に別れを告げた。最後まで桃っちは気にしていたが、任せて欲しいと言い撥ねた。


「……‥捺夏、その跡はなんスか」


眠っている捺夏に向かって俺は小声で呟いていた。抱きかかえるときに見えてしまった鎖骨よりも下にあった傷。中学のとき、この位置には見たことはなかった。無かったはずだ。


“いつになったら教えてくれるっスか?その傷跡は俺たちの前から消えた理由と関係しているんスか?

 起きて、笑ってほしいっス。俺の大好きな笑顔を見せて”



腕の中の、君の重みを感じながら俺は後にした。


何も言わずに遠くへ行くから、
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