ルドガーたちがクエストに出掛けている間、僕とミラは買い出しを任された。剣を振るうことに味をしめたミラはルドガーについて行くと言って聞かなかったけれど、じゃんけんで負けてしまうと引き下がるわけにもいかず、不満そうに口を曲げて承諾し、今に至る。まあ、そのじゃんけんも言い出したアルヴィンがイカサマを仕掛けていたんだろうことは容易に想像出来るけれど、僕としては戦うよりこうして街を見ながらのんびりと買い物をする方がいいから、有り難かった。
「ねえ、ミラ。今日の夕飯は何がいい?」
野菜や果物の並ぶ店の前でミラに尋ねると、チャームポイントの髪がひょこんと動く。機嫌取りじゃないけれど、ルドガーに今日はミラの食べたいものにするからと言われていたんだ。他の雑貨は大方揃ったから、あとは食材だけ。メニューが決まらなければどうしようもない。
「夕飯……」
「うん、なんでもいいよ」
じゅるりとミラは垂れてきた涎を拭うと、何事もなかったかのように腕を組んで、そうだな、と目を閉じる。きっと今のミラの頭の中は、色んな食べ物が浮かんでいるんだろうな。想像するだけで口元が緩んでしまい、店主の咳払いで我に返った。
「決まった?」
「うむ、マーボーカレーがいいぞ!」
ミラはきらきらとした目で、まだ食べてもいないのに満足そうに言う。リクエストを聞くと大体マーボーカレーって答えるけど、やっぱり好きなのかな。
「じゃあ、ルドガーにそう言っておくよ」
「………む?」
ルドガーはすっかり僕たちの料理係で、作ることが当たり前にすらなってきている。だから今更言うことでもなかったけれど、ルドガーがミラのために用意するのだからと思って告げると、どうしてかミラは眉をひそめて首を傾げる。何か、おかしかったかな。
「ミラ?」
「君が作るのではないのか?」
「え?」
ルドガーが作るのはいつものことだし、どうして急に僕が作ると思ったんだろう。
今度はこちらが首を傾げていると、ミラは拗ねたように唇を曲げて、顔をしかめる。
「私は、ジュードの作るマーボーカレーがいいんだ」
瞬きを二回して、呆然とミラを見つめる。
でも、だって、ミラもルドガーの作る料理はおいしいって言って食べているし、いつも嬉しそうだ。もう僕が作ることはなくなって、ちょっと寂しいなあとは思っていたけれど、それが顔に出ていたんだろうか。だから気を使わせてしまった、のかな。それとも。
思い浮かんだ言葉に、身体中の熱が顔へと上っていく。だって、そうだったら、すごく。
「私は君の作るマーボーカレーが好きなんだ」
嬉しい。料理人なんて偉そうなことを言えるレベルじゃないし、ルドガーに比べたらまだまだなくらいなのに。そんな僕の料理を、食べたいって言ってくれる。それも、ミラが。
「ダメだろうか」
「そ、そんなことないよ!」
他ならぬミラに、そんな風に言われて僕が断れるはずもない。ううん、断るなんて選択肢は、ない。
一年前も、ずっとそうだ。僕はミラに必要とされているのが何よりも。
こほん、と店主がもう一度咳払いをする。はっとして恐る恐るにそちらを見れば、怖い顔でじろりと睨んでいた。
「と、とにかく。ミラの夕飯は僕が作るから」
「うむ。楽しみにしているぞ!」
精霊の主、そう名乗った姿と変わらないのに、無邪気な笑みを浮かべるのは子供のようで、鼓動がひとつ音を立てる。
ルドガーが帰ってきたら、今日はみんなの分と、エルの分と、それから僕が作るミラ用の鍋を用意しなくちゃな。
普通に考えれば面倒なことのはずなのに、僕の足取りはとても軽かった。



>>2013/02/11
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