ジュミラ←アルヴィンっぽい気がしなくもないアルミラ



「ありゃ、ミラ様?」
トリグラフのマンション前、公園から厚い雲のかかった空を見上げる姿に思わず声を上げる。街灯に当てられて光る金髪を揺らして振り返ったミラは、その神々しさは失われていないはずなのに、どうしてか普通の女性のように思えた。
「……アルヴィンか」
「ジュードと一緒じゃなかったのか?」
少し前にちらりと姿を見かけた時には、ジュードと一緒だったはずだ。二人で何か話している様子だったから、普段ならちゃかしてやろうだとか考えるところだが今は止めとくかと背を向けてから、それほど時間も経っていない。まさかこれが最後の戦いになろうかという時に二人が喧嘩をしたとも考えられないし、そもそもジュードとミラが喧嘩するなんてあり得ないか。
「少し、一人になりたかったんだよ」
微笑を浮かべて答えるミラに、ふうん、と鼻を鳴らす。静かな音を奏でるミラの姿は、どこか怯えているような、不安に飲まれているような。いずれにせよ、とてもじゃないが一人にしていいようには思えないけどな。
「じゃあ俺も退散しますかね」
「ああ、ゆっくり休めよ」
大方ジュードには心配を掛けられないから、言い出せなかったんだろうが。そう思ってわざと、引き留めやすいように手をひらひらと振って背を見せたのに、ミラはさもそれが当然かと言うように俺を見送る。違うだろ、言うべきは、それじゃないだろ。
「……じゃ、ねえだろ」
「む?」
振り返れば、ミラは良く分からないといった様子で首を傾げる。女性の身なりのわりにはすらりと高い身長、完璧すぎるくらいに整った美しい身体、いっそ自ら光を放っているのではないかと思うほど綺麗な金髪、それらはすべていつも通りだが、上を行くものなどいないのではないかと思うほど麗しい顔立ちだけは、違う。
眉は下がり、鋭く凛々しい瞳は心許無くて、夜を不安がる少女のようだ。それくらい感情が外に出てるって、気付いてないのか。
本当に世話が焼ける。大きく溜息をひとつ零せばまた、ミラはその頭に疑問符を浮かべた。不安そうな顔のままで。しょうがない。
「おたくが、ジュードすら避けて一人になんのに、ただなんとなくってはずねーだろ」
「そうか?」
「ああそうだ。だから」
未だに何を言われているのか分かっていないらしい精霊の主様に、腕を伸ばす。ジュードに見られたら、また殴られるかもしれないな。
「……んな、不安そうな顔すんなよ」
どんなに気丈ぶっても華奢なその身体を引き寄せて、胸に収める。油断していたのか、俺が信頼を得たのか、それとも力を入れることすらままならなかったのか。ミラは大人しく俺の胸元へ倒れ込んで来て、金色の髪からはふわりといい香りが漂った。
少しの間を置いて、ミラは、はっとしたように顔を上げる。睨むように眉は釣り上がっているけれど、やはりどこか不安気な雰囲気は抜け切れていない。まだ、だめなのか。俺じゃだめなのかもしれない、けど。
「何を言っているんだ。私は―――」
「精霊の主様だろ。ジュード君や俺たちっていう仲間を持った」
未だ気丈ぶろうとするミラの頭を撫でて、そうだろ、と問い掛ける。するとミラはゆっくりと視線を下げて、瞼を伏せた。その瞳に何を映しているかは分からない。だけど、ひとつだけ、確実に言えることがある。
「だから、大丈夫だ」
ミラのことを信じる仲間がいて、どんなことがあっても手伝うと決めたジュードが傍に居るのに、これ以上何を不安に思う必要があるんだ。大丈夫、ミラなら、たとえどんなことでも。
「……ああ、そうだな」
瞼を閉じたままのミラはそう言って、ようやく安心したように口元を緩めていた。



>>2013/02/25
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