こっち向いて




「一松」

「ん」



呼びかけると返ってくる気の無い返事。
返事はあるけど視線は手元の雑誌に向けられたまま。
その視線が欲しくて、また私は声をかける。



「ねぇ、一松」

「…なに?」



かなり鬱陶しそうな様子になった。
それでも律儀に返事は返してくる。
だけど顔はこちらに向かなくて、なんだか悔しい。



「一松、好き」

「…」

「一松は?」

「…」



こちとら告白しているというのに、さっきと変わらない様子の一松。
それどころか返事も返ってこなくなってしまった。



「ねぇ、一松ってば」

「…なんでそんなこと言わなきゃいけないの」



痺れを切らして軽く肩を揺さぶって見る。
それでも彼はこちらを見ずにそう言った。
心底面倒くさそうに。



一松にこっちを向いてもらいたいだけなのに、どうしてうまくいかないの。



悲しみは無くむしろ怒りが沸き上がってくる。
感情のままに目をつり上げ、頬を膨らませた。
まぁ、一松には見えていないだろうけど。


「…もういいっ、一松のばか」


小さくそう言って立ち上がる。
今日はもう止めだ。
おそ松にでも遊んでもらおう。
そう思った時。



くんっ



「…っ?」



何かに引かれるような感じがして足が止まる。
振り返ると、私の服の裾を掴んでいる紫パーカーの腕。
顔はさっきと変わらず、雑誌に向いたまま。



「…なに?」

「…」



問い掛けても返事は返ってこない。
不思議に思い、小首を傾げながら一松の反応を見ていると。
視界に入った赤い耳。



「…」



服を握ったまま離されない手。
少し近づいて手元を覗き込むと、先程から進んでいない雑誌のページ。



「…」



怒っていたことも忘れて、嬉しさが胸に溢れてくる。
頑ななまでにこっちを見なかったのは、ないがしろにされてたんじゃなくて。



「恥ずかしかったのかぁ」

「…うるさい」



イラついた声で言いながら、赤い顔でこちらを睨みつける。
そんな一松が可愛くて。



「一松大好き!」



彼の背中に、勢いよく抱きつくのだった。




(あとがき)
おそ松さんより一松くんでした。
最近DVDを見てます。押しは一松くん。
素直じゃないひねくれ者だけど甘えん坊な感じが好き。
で、こんな作品になりました。どうでしょ?



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