夢と君と屋上と




足下には、コンクリートと空中。
一歩踏み出せば、そこに確実なものはない。
どこまでも不安定な、何もない空。
そんな非現実的な場所に、私は立っていた。



…夢を、見る。
何度も、何度も、ここから落ちる。
落ちる間のことは覚えているのに、叩きつけられる瞬間のことは覚えていない。
何事もなかったように目覚め、一日が始まり、終わり、そしてまた私はここから落ちる。



どうして、と初めの頃は思った。
でも、今は考えるのを止めた。
所詮夢、考えた所で無意味だと。
たかが夢、されど夢。
夢でよく見る場所に興味を持って来て見れば、そこは夢で見るのと何も変わらなかった。



私は何度も、ここから落ちる。
何度も、何度も、ここから落ちる。
不快な浮遊感に包まれて、それでも恐怖は感じないまま。



「なんで、お前は」



背後から聞こえた声に、自然に踏みだそうとしていた足を止める。
この声には覚えがある。
よく知っている、聞き慣れた声だ。



「…日吉」



日吉若。私の幼なじみ。
クールな彼は、感情の掴めない顔でそこに立っていた。



「何をしているんだ」



日吉は問う。静かに問う。



「…夢を、見るの」



私の答えは、答えになっていなかったかもしれない。
でも、なんでだろう。
日吉には伝わる気がした。



何度も、何度も、ここから落ちる。
理由も何も、わからないけれど。
夢と現実の区別がつかなくなるほど、リアルに。
私は何度も、ここから落ちる。



「どうして、なのかな」

「…決まっているだろう」



呆れを含んだその声に、自然と小首を傾げる。
不思議でたまらない私を置いて、日吉は先に進んでいく。



「生まれ変わりたいんだろう、新しい自分に」



夢の中で死ぬことは、現実での再生を意味する。
何度も何度も死ぬことは、再生したい気持ちの強さを表す。
事も無げに話す日吉の言葉を、私は黙って聞いていた。





日吉は、ゆっくり手を伸ばす。



「来い、こっちに」



普通に話しているだけなのに、何故だろう。
君の声は私の耳によく届く。



「来るんだ、柚葉」



そう、ここは、現実だ。
日吉がいる。だから、これは夢じゃない。
今は、落ちない。きっと夢でも、もう落ちることはない。



君に呼ばれて、空を離れる。
君に手を伸ばしながら、ずっと言いたかった言葉を音にする。



「私、好きだ。日吉のこと」



呟くような告白は、君に届いただろうか?



(あとがき)
tnsの日吉くん。一番好きです。
死ぬ夢はすごい吉兆だと夢占いで調べてできた話。
意味不明な感じにしたくて書いたら書いた本人にもよくわからない感じになった。



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