浮気騒動・前




普段と変わらぬ松野家の昼下がり。



「ねぇ一松」

「んー」

「私にも構ってよー!」

「…んー」



四男一松とその彼女柚葉は、二人並んで過ごしていた。

一松は猫とじゃれて楽しそうにしているが、柚葉はそれを横から見ながら少し不満そうにしている。

猫と戯れている一松は可愛いが、自分のことも忘れないで欲しい。

その一心で一松に声を掛けるが。



「ふふっ、可愛い」



むしろ見向きもしない一松の様子に、柚葉の頬はみるみる膨らんでいく。



「一松の意地悪っ、あんまり私のことほっといたら浮気しちゃうかもしれないんだからっ」



そう言うと、これまで柚葉に見向きもしなかった一松がゆっくりと振り返り、ニヤリと笑った。



「…浮気?お前が?」

「…っ帰る!!」



その笑みは、嘲笑。
できるものならやってみろ、という挑戦的な笑み。
それを直視した柚葉は顔を真っ赤にして松野家を飛び出して行った。










――――――――――――――――










「たっだいまー。あれ?柚葉ちゃんは?」

「…さぁ、帰ったんじゃない?」

「えー、もう帰っちゃったの?」



つまんねー、と言いながらおそ松は床に腰を降ろした。
猫と存分に戯れた一松もようやく腰を上げて部屋を見渡す。
部屋に柚葉の残り香は無く、柚葉が帰ってから時間が経っていることを示していた。

確か柚葉は、自分があまりにも相手にしないから「浮気してやる!」と言って出て行ったのだったか。
あいつに浮気なんて出来るわけないと高をくくっていたが、今更一抹の不安がよぎる。
まさかほんとに…なんてこと無いよな?

そんな一松の思考に合わせるかのように、誰かが部屋へ駆け込んでくる音がした。



「ちょっ、柚葉ちゃんが男の人と楽しそうに歩いてたんだけどなにあれ?!どしたの!!」

「「…は?」」



血相を変えたチョロ松が部屋に飛び込んでくると、部屋にいた二人の声が揃った。
一瞬意味が理解できず、目が点になる。
思わず、と言った様子でおそ松が聞く。



「え、お前それどこで見たの」

「公園だけど」



それなら、チョロ松の見間違いだろう。
一松がそう納得しようとした所で、再び部屋へと掛けてくる足音がする。



「い、一松!一松ガールがイケメンボーイと映画館に入って行ったんだが、なんだあれは!?」

「「「は?」」

「柚葉ちゃんめっちゃラブラブで男の人とお茶してたけど、何?一松兄さん振られたの?」

「「「「は?」」」

「柚葉ちゃん恋人繋ぎした男の人と繁華街に入って行っちゃったよー!」

「「「「「はぁ!?」」」」」

「ラブホかな!?AVかな?!」



次々にもたらされる情報に一松はよろめいた。
まさか本当に浮気してるのか…?!
沸き上がってくるなんとも言えない気持ちが気持ち悪い。
イライラして、チクチクして、ゾワゾワして仕方ない。
いてもたってもいられなくなり、一松は外へ飛び出した。




(あとがき)
おそ松さんより、一松くん。
長くなっちゃったので分割します。
十四松くんにAVって言わせたかっただけの作品です。



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