単発作品 | ナノ









あの人に迫る刃が見える。



助けなくては。
普段ならそんなこと思わない。
だって彼は強いから。
飄々と笑う裏で、大切なものを守る力を持っていることを知っているから。
だから、そんなこと思わないのだけれど。



今は違う。
神子を庇って姿勢を崩している今は。
きっと、避けることも受けることも、できない。



思考と同時に体が動く。
どうしたらいい、とか、そんなことわからない。
とにかく、あの刃を彼に届かせてはダメだ。
その一心で彼の元まで駆ける。



一閃。



胸に衝撃が走った。
その後、とてつもない熱と痛みが襲ってくる。
声が抑えられない。喉までも熱い。



「――柚葉!」



背後から聞こえる、彼の声。
私を呼ぶ、声だ。
それに応えようとして、ゴポリと口に液体が上がってくる。
邪魔だな、気持ち悪い。
そう思うけれど、それを拭うことはできない。



息ができなくて、苦しい。
振り返ろうとして、うまくいかずに、無様に崩れゆく体。
地に打ち付けた体がまた痛くて、たまらない。



「柚葉!柚葉!!」



駆け寄ってきた彼に抱き起こされる。
泣きそうに歪められた、綺麗な顔。
こんな必死な形相は、初めて見た。



「…なか…いで…」



初めて見る表情は、私だけのもの。
ずっと神子を追っていた、でも今は私だけを写すあなたの瞳。
痛みの中確かに感じる優越感に口元が上がる。
こんな状況で、私は確かに幸せを感じている。



あぁ、でももう限界だ。



痛みはもう遥か遠く。
体は急速に冷えていく。
息苦しさだけが浮き彫りにされて。
もうあなたの顔も見えない。



「…だいすき」



ようやく音にした言葉。
頬に暖かいものが、伝った気がした。






(あとがき)
お題サイト秋桜の「傷つけあった恋」よりお借りしました。
イメージはヒノエ君でしたが、他のキャラでもいけそうですね。
表現が拙くて緊迫感が伝わらない…。





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