この連作は、2024年2月21日に寄せたものです
“令和七年七の月、本当の水色が来る デュアラーになる”本当の大災難は2025年7月に来るらしい(
参考)。
ここ1年ほどのわたしは、世界の大変革の訪れを予感して、いつも怯えている。
来年の7月にどんな悲劇がやってくるのかわからないけれど、革命はいつも水色だ。世界の前提が大きく書き換わる日は近い。だからデュアラー、すなわち都市と地方の二拠点生活を送る人になる。
“水色のエレベーターがこの家をわたしを乗せて東京を飛ぶ”夢の家のエレベーターに寄せる歌。
わたしの新しい肉体をつくりあげたのは、最近まで住んでいた夢の家だった。京浜東北線の水色の電車は、わたしを乗せて行ったり来たりして、東京に戸籍を作ってくれた。あるいは、夢の家のエレベーターは本当に水色をしていた。
そういえばそれ以前に住んでいた家も、水色のドアからわたしを送り出し、水色の電車に乗せてくれた。
幸せになりたい。たったそれだけのために、10年かけて水色を殺し尽くしたことを心底悲しんでいたけれど、わたしが思うわたしはいつも水色だったから、いまのからだをつくったのも水色だったんだと気づいて、うれしかった。
“東京に恋人がいる信じてるわたしを導く死神がいる”運命の人は東京にいるということ。
“幸せになりたいあなたを守りたい天が落とした真昼の星みる”2023年2月21日、六本木の非常階段にて。
ちょうどその頃、モーニング娘。の2002年のヒット曲『
そうだ! We're ALIVE』の歌詞である「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR♪」というフレーズが流行っているのをTwitterのTLで見かけた。2022年11月にリリースされた米津玄師さんの曲に引用されていて、再ヒットしたのだそうだ。
努力した先の未来にあるのは、たしかに美しい星だった。でも、神さまは星を落としてしまった。そういうこともあるだろう。六本木という東京のど真ん中の9階で、わたしは見た。
モー娘。全盛期に幼稚園から小学校低学年を過ごしたわたしにとって、「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR♪」に続くのは「幸せになりたい あなたを守ってあげたい」という歌詞だった。本当だったら、空から星が降ってきたならば地上に生きる人間がキャッチするべきだろう。でも、そうしなかった。わたしはその役割を地球にゆだねた。幸せになりたかったから。
ここは、幸せになることと引き換えに星を守れなかったほうの世界だ。だからわたしは生きている。だからもう、水色を守れない世界を捨てて、デュアラーになる。
“二月の東京はどこまでも晴れているあと少し陽が沈まぬように”2024年2月21日のために。
夢の家の録画を消しに、東京へ行った。
生まれ育った土地の2月は、ほとんど晴れ間がない。東京で雪が降ると、酒田と同じ空だ、と思う。日本海沿岸の2月は、空一面を覆うどんよりとした灰色の雲と行く手を阻む猛吹雪が当たり前にそこにある。1年に1度あるかないかの、暗い東京が訪れるまで気づかないほどに。
今年は2回目だった。去年と同じように、ビル街と相まって白みがかった空はどこまでも晴れていた。酒田では見ることのできない水色。それを真っ白に貫く沈まない夕陽。昨年のような感動はもうない。これからはこの気持ちを毎年積み重ねていくのだ。
来年も再来年も、2月21日は何度でも訪れるだろう。沈みゆく夕陽がふたたび昇ることを知っていても、訪れては去ってゆくのがかなしい。太陽はいつだってそばにあるんだとわかっていても。