これが正しい道だと思っていた
これが、私の運命なのだ、と______



元治元年 五月

あの雪の日…私-雪村千鶴-が新選組と出逢ってから、半年が経とうとしていた。

季節も春になり、暖かくなってきた今日この頃。庭に咲いていた小さな花を見つけて、思わず笑がこぼれる。

もう、あの日から半年も経つのか…
父様を探しに上京したのに、まさかこんな事になるなんて。

初めは、あんな出会い方だったし、"壬生狼"や"人斬り集団"だと言われていたから、怖い人ばかりだと思っていたけれど…平助くんや原田さんを初め、幹部の方々と話すようになり、少しずつこの生活にも慣れてきた。

そして、先日の山南さんの腕の事件を経て、いまでは炊事洗濯などを任せてもらえるようになり、御飯も一緒に食べさせてもらえるようにもなった。

そして、ついに今日。

「お前に外出許可をくれてやる」
「っありがとうございます!!」

先日、斎藤さんと手合せをして私の力を認め(?)てくださり、土方さんに外出許可をとって下さったんです!!これでやっと、父様を探しに行ける…!!

そんな意気込みと、半年ぶりに外に出られるのとで、私の心は弾んでいた。



「市中を巡察する隊士に同行しろ。隊を束ねる組長の指示には必ず従え。総司、平助。今日の巡察はお前らだったな。」
「浪士に絡まれても見捨てるけど、良い?」
「ええっ」
「良い分けねえだろうが!!」

長州が不穏な動きを見せて危険なため、恐ろしい冗談を笑いながら発するこの方-沖田総司さん-が組長を務める一番組に同行しながら、今日は父様の行方を探す事となった。
平助くんは、夜の番だからと一緒には行けなかったけれど、私のことを心配して送り出してくれた。


「ああ、そういう感じの人なら、少し前にそこの升屋さんで見かけましたよ。」
「ありがとうございます!!」

そうして千鶴は、町の升屋に足を向けた。

「すみません、お尋ねしたいのですが…」
「おい!!そいつ今新選組と一緒に居たやつだぞ!!」

「…え、」

新選組という言葉が聞こえた瞬間、店に居た者達が一斉に千鶴を睨み、数人が抜刀し自分に斬りかかってくるが、恐怖のあまり千鶴は一歩も動けない。
刀が近づき、目の前に刃が迫り…千鶴の目の色が濁った。
…瞬間。
ガキン、と刀のぶつかる音が響き、千鶴の身体は何者かに抱きとめられていた。
「…大丈夫か、」
「…え…?あ…」

唐突な事に上手く言葉が出ずにいると、彼女を抱きとめた人物が、言葉を発した。黒髪を靡かせ抜刀し、まるで顔を隠すように深く襟巻をしたその者は、大丈夫そうだな、と呟くと、千鶴を追いかけてきた沖田を一瞥し、そっと千鶴からが離れた。

「あっあの!!」
「君って本当に運がないよね…まあ、僕もだけど。」

茫然としていた千鶴が我に返り声をかけようとすると沖田に話しかけられ、再び視線を戻すと、其処にはもう、彼の姿は無かった。

「(…あの人は、誰だったんだろう……)」




その後、升屋の主人…身分を偽っていた長州の間者・古田可俊太郎は新選組に捕縛され、直ぐに会議が開かれた。、そこで判明したのは、升屋は監察方が元々探りを入れていたこと、そして自分のせいで沖田が山南に攻められている事に、千鶴は心を痛めていた。

「私が悪かったんです、父を見かけたという話を聞いて、後さき考えずに店に行ってしまったから…」
「それに関しちゃ、外出の許可を出した俺にも責任がある。こいつらばかり責めないでくれ。」

しかしそんな中、古高の拷問から戻った土方から告げられたのは、長州の目的…風の強い日を選んで京の町に火を放ち、その機に乗じて天子様を長州へ連れ出す、という衝撃の作戦。古高が捕縛され情報が漏れたとなると、長州は必ず今夜に会合を開く、と言うのが土方の考えだった。

「長州が会合を持つ場所は?」
「これまでの動きから見て四国屋、あるいは池田屋かと思われます。」
「…よし、隊士たちを集めろ!」

その夜、会津藩や所司代の腰が上がらないことを受け、会津藩が来る前に、新選組は四国屋へは土方を含む二十四名、池田屋へは、近藤・沖田・藤堂・永倉ら十名と二手に分かれて向かう事になった。流行病で動けないものが多く、少人数での襲撃に、隊士らは一抹の不安を持っていた。

「俺なら…手薄になった屯所を襲撃する」
「同感です、我あれを恨んでいる者は多いですからね」
「…後の事は頼んだぞ、山南さん」
「ええ、土方君も。行けない私の分までお願いしますよ」
「ああ。」

千鶴は山南と共に屯所に待機という形となった。どうか、誰も傷つかずに…そう思いながら、皆の帰りを待った。


数刻後

「山南総長!!本命は…池田屋です!!」

会合がどちらで行われるのかを先に調査していた監察方・山崎が屯所へ戻って来、山南が予想していた四国屋ではなく、池田屋だという事が伝えられた。
池田屋には近藤や沖田ら幹部が揃っているものの、数では確実に劣勢であり、いち早く四国屋に向かった隊士たちを池田屋に向かわせなければいけない。

「池田屋…」
「私としたことが見誤りました…」
「すぐに、土方副長のいる四国屋へ伝えに行きます」
「頼みます。事は一刻を争う…それと雪村君、君も、山崎君に同行してください。」
「私が…ですか?」
「はい。何があるか分かりません。確実に伝えるには、一人より二人です。行ってくれますね。」
「はい!!」

山南一人を残すのにも不安はあったが、それよりも今は…そう決断し、千鶴は山崎と共に屯所を出た。
しかし屯所の前では、土方や山南が予想していた通り、新選組に恨みを持つ浪士らが複数立ちはだかり、山崎は浪士らを先に片付ける為、伝令を千鶴に託し、千鶴は四国屋への道をひたすらに走り続けた。





「こっちが当たりみたいですね…」

一方、池田屋に向かった近藤らは長州藩士の姿を見つけていたが、人数不足の為に、会津藩や所司代の到着を待っていた。
「会津藩はまだ来ていないのか?」
「今の所、姿はありません!」
「くっそー…何やってんだよ会津藩は!」
もう会合が終わってしまう時間だ。このままでは会合に参加した者達の全員捕縛が難しくなっていしまう。
「どうします?これで逃がしちゃったら無様ですよ、近藤さん」
沖田のこの一言に、ついに近藤は決意を固めた。
「やむを得ん…我々だけで踏み込むぞ!!」

「会津中条殿お預かり新選組!詮議の為、宿内を改める!!」



「…下が騒がしいな…幕府の犬どもか…」

煩わしそうに美しい顔を歪め、耳を立てる。どうやらまだこの階には登ってこない様子だ。己も長州の間者として関わっていただけであるため、奴らが来た以上ここでゆっくりしてはいられない。そろそろ隣室にいる付き人を呼び戻すか…と思い立ち上がった時。

「新選組、か…」

珍しい表情を見せた彼女が目に入った。

「ほう…珍しいな、お前が人間に興味を持つとは…」

普段表情を表にださない彼女は、なんとも美しい、せつない表情をしていた。まるで…そう、恋情を抱いている少女のような。

「お前には関係のない事だ。だが…殺すなよ」
「ふん…俺の機嫌を損ねなければな…」

面白い物が見れた、と口元を緩める。

鈍い月光の下
異様な雰囲気を纏う金髪の男と、美しい黒髪の者が、口約束を交わした…







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