三月の仕事の多さは半端ないってことを知らないやつはいないはずだ、だからパソコンのコンセントに足引っ掛けてデータ吹っ飛ばしたそこのお前覚悟はできてるんだろうな? | ナノ





「あー終わらない」

「もうそれ言わないで聞いててつらい」


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三月の仕事量は冗談抜きで多い。

各取引先が年度末の確認やらなんらやで発送が急激に増加する、というのもその原因の一つだが、四月の引き継ぎに向けて年間の総まとめをしなければならないのが辛い。



「薫ー、月末まであと何日だっけ」
「二日」
「・・・」

営業部室でデータ整理に追われているのは蒲原薫と菅平優香。

豊橋支店の営業部が総員で5人、というのは由々しき事態である。少なすぎる。


「蒲原部長、提出期限延ばしたり・・・」
「出来たらこんな惨状にはなってないでしょうね?」

「デスヨネー」

残業続きの社員達、家にも帰らずデスクに突っ伏して眠り、仕事を続行しているこの三日間、そう広くないこの部屋は散らかり放題である。

「そろそろ昼なんで俺買い出し行ってきます。何か食べたいものある人」

「いいから早く行け、食べやすいものならなんでもいい」

「・・・蒲原さん怖いんすけど」

いってきます、というつぶやきに反応するものはいない。
ただパソコンのキーボードの叩かれる音とマウスの音に支配されている部屋はいっそ不気味だ。


「もういやだ・・・」

「泣きごと言わないで下さいよ課長、俺らまで士気下がります」

課長、と呼ばれた菅平は必死にパソコンに向かうが、努力のかいなく寝オチした。

女性の管理職が多いこの会社、社長も会長も女性である。


「・・・部長、課長寝てますけど」
「大丈夫、ほっとけばそのうち起きるでしょ」


カチカチと進む時計が恨めしい。



「戻りました、パン買ってきました」

寝ている菅平を発見して、そっとドアを閉めたその配慮もむなしく。

「うおっ?!わ!!」

ズルッ、ドテッ、ビターン、ブチッ・・・


床に散らばった包装紙につまづいて派手に転ぶ。




「・・・・・・・」


「イタタ・・・あ」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「えっと・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


パソコンに接続されていたコンセントが引っかかって抜けてしまい、不幸なことに。


「すみませんでした・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


その接続先は蒲原薫のパソコンで。


「・・・・ぉ、」


「はい?」



「この、アホゥッ!!!!!」


蒲原の怒号によって目覚めた菅平が、顔をしかめて耳をふさぐまで、あと3秒。・・・




三月の仕事の多さは半端ないってことを知らないやつはいないはずだ、だからパソコンのコンセントに足引っ掛けてデータ吹っ飛ばしたそこのお前覚悟はできてるんだろうな?


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